GET v. SONY
(CAFC: 2026219)
24-1686.OPINION.2-19-2026_2649632.pdf

MPF構成要素の解釈(明細書に開示された対応する構造と均等物)とイ号との対比の仕方

 Summarized by Tatsuo YABE on 2026-02-25


本件では、クレームのencoding meansがMPF解釈(112条(f)解釈が適用)された。当該構成要素の文言上の範囲は明細書の開示(図面を含む)と均等物に限定的に解釈された。当該構成要素に対応する明細書の開示(構造)は明白であり、その記述はかなり詳細であった。即ち、当該構成要素は複数の部材で形成されている。MPF解釈された構成要素の均等物を判断する手法はDOEと類似しており、3要素テスト(クレームの構成要素とイ号の対応する要素との「機能・手段・結果」を比較する)を使う。MPF構成要素の均等物の判断においては「機能」は同一で「手法」と「結果」は実質同一であるかで判断する。この場合の「手段」とは、装置クレームの場合には機能を実現する構造を意味する。本件特許においては「手法」に対応する明細書の記載がかなり詳述されていたので、結果的にその詳述された構造とイ号との対比において実質同一性の主張に説得力が無いと判断された。

なお、本件クレームにおいて、素朴な疑問が沸く。権利者(出願人)はなぜクレームで encoding meansと記載したのか encoderと記載しておれば112条(f)項の解釈を免れたのではなかろうか? 逆に言えば encoding meansとしMPF解釈故に先行技術文献の適用範囲を狭め権利化しやすく意図したのか、さらには、権利化後の有効性の維持に備えたのだろうか? 

さらに、本件特許は1998年に出願されており権利満了の1年前(2017年)にSONY相手に侵害訴訟が提起された。権利者は最後に刀を抜き、せめて和解にでも持ちこむことを意図していたのだろうか?(以上筆者)


 権利者:Genuine Enabling Tech (GET)
 問題となった特許:US6,219,730 (1998年出願:2001年特許)
コンピュータに複数の入力デバイス(キーボード、センサー等)からのデータを同期(synchronize)し、単一のデータストリームとしてエンコードする装置に関する。平たく言うと単一のユーザーが同時に複数の入力(スティックボタンを操作し位置決めしながらミサイルボタンを押し操作する)をする場合にその各々の信号が時間軸でぶつかり合わない様にシンクロナイズさせる。
 問題となったクレーム10:
なぜ従属クレーム10での権利行使なのかは判決文からは明確ではないがIPRが何度か請求され結果的に従属クレーム10が最も広いクレームとしてSONY相手に権利行使したと理解される。

1. A user input apparatus operatively coupled to a computer via a communication means additionally receiving at least one input signal, comprising:

user input means for producing a user input stream;

input means for producing the at least one input signal;

converting means for receiving the at least one input signal and producing therefrom an input stream; and

encoding means for synchronizing the user input stream with the input stream and encoding the same into a combined data stream transferable by the communication means.

10. The apparatus of claim 1 wherein the input means is an input transducer.

しかし、問題となったのはクレーム1の以下の構成要素の解釈であり、その権利範囲である。
encoding means for synchronizing the user input stream with the input stream and encoding the same into a combined data stream”

“encode”とはデータを特定の規則に基づき別の形式に「符号化」、「暗号化」、「変換」すること。 

 被疑侵害者:SONY Group SONY
PlayStation 3 / 4 のコントローラおよびコンソール

GETの主張:

Bluetoothモジュールが同期している

同期(synchronizing

 地裁判決の要約(2017年:訴訟開始、実に1998年の出願日から19年後に権利行使)
Encoding meansは112条(f)項で解釈する。よって、対応する明細書の開示(構造)に限定的に解釈し、且つ、その「均等物」を含む。明細書及び図面では図4Aの「Logic block 34」 全体が対応する構造と理解される。

GETの主張: SONYの製品はlogic block 34の均等物に相当する部材を備えているので文言上侵害する。
地裁は略式判決でGETの主張を否定した(logic block 34は詳細なエレメントで構成されており、それらエレメントに対する機能・手法・結果の実質同一性を挙証できていない)。

■ CAFC:
地裁判決を支持する。
112条(f)項で規定するMPF要素に対する文言侵害(充足性)を検討するにあたり、基本は、DOE(均等論)の適用による「機能・手法・結果」の実質同一性テストに類似した手法で判断する。

挙証責任は権利者の側にあり、以下を立証すること:
「1」 クレームのMPF要素に対応すると思われるイ号の部材を特定する;
「2」 イ号の部材がクレームのMPF要素と実質的に同一の手段で、同一の機能を実施し、且つ、実質的に同一の結果を得ること 

本件においては「実質的に同一の手段どのようにして機能を実現するのか)」の挙証が不十分であった。その理由は730特許の encoding means 34に対応する構造(FIG 4AのLogic Block 34)が明細書に詳述されており、それら各エレメント(データ選別部50;クロック生成部62;オシレーターOSC)に対する実質的に同じ構造(手段)がイ号に存在することの証明が不十分だった。

明細書には、クロック生成部62はOSCからの信号を分割しBCLK(ビットレート信号:1秒間に送信・処理されるデータのタイミングを制御する信号)を生成し、その生成されたBCLKCODEC30に供与することで入力信号31を入力ストリーム33に変換すると記載されている。

GELはクレームの機能を実現する構造はデータ選別部、CODECとビットレート信号のみであると主張しSONYのBluetoothモジュールと等価であると主張した。地裁訴訟の後半ではビットレート信号のみが均等物判断の3要素テスト(機能・手段・結果)の手段(どのようにして機能を実現するか)に対応すると主張した。しかし図4Aのロジックブロック34においてビットレート信号のみが必須であるという説明がなされなかった。

確かに、構造(3要素テストの「手段」)の同一性を判断するにあたり部材と部材の1対1対応で分析することは必ずしも必要ではない。しかしながら、クレームのencoding meansに対応するロジックブロック34は多くの部材で構成されており、GETの主張には他の重要な部材を考慮に入れる必要が無いという説明が欠落している。 即ち、均等物を判断する3要素テストの「手段(いかにして機能を実現するのか)」の分析を省いている。Traxcell事件において述べたように、我々CAFCは、MPF要素に対応する明細書のアルゴリズムの重要な部分を検討せずになされた専門家の証言は、MPF要素の構造的な同一性の挙証を失墜していると判断した。Traxcell Techs. LLC v. Sprint Commc’ns 15 F 4th 1121 (Fed. Cir. 2021)

Dawn Equipment事件で判示したように3要素テストを適用するにあたり、「手法」と「結果」に関しては112条(f)項の均等物と均等論(DOE)は同じである。Dawn事件において権利者はクレームの構成要素のピン、回転軸、と溝のうちピンに対してのみ被疑侵害品の構造との同一性を主張した。回転軸と溝という構成要素に対してはイ号との同一性判断がなされていなかったのでイ号の製品が実質的に同じ「手法」で操作されるとは判断されなかった。 Dawn Equipment Co. v. Kentucky Farms Inc., 140 F.3d (Fed. Cir. 1998)

上記したようにGETはクレームの構成要素(ロジックブロック34)とイ号製品のブラックボックスとの違いを埋めようとしたが、十分な証拠で挙証できなかった。さらに、無数の手法で同一機能が実現されることを良しとする場合には3要素テスト(機能・手法・結果)が2要素テスト(機能・結果)に成り下がってしまう。

地裁の略式判決を支持する。

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参考:

112(f)均等 vs DOE(まとめ図式)

       項目          112(f)均等物 DOE(均等論)
 法的位置付け  文言侵害  均等侵害
 法的根拠      米国特許法112(f)          衡平法     
 権利範囲  対応構造の均等物  claim外拡張
   3要素テスト  
 機能  同一  実質的に同一
 手段  実質的に同一  実質的に同一
 結果  実質的に同一  実質的に同一
 3要素テストを
適用するタイミング
 出願時  侵害時