Enviro Tech Chemical v. SAFE FOODS Corp
(Fed. Cir. 2026-05-04)
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ENVIRO TECH CHEMICAL SERVICES, INC. v. SAFE FOODS CORP. , No. 24-2160 (Fed. Cir. 2026) :: Justia
クレームの“a pH of about 7.6 to about 10”によってクレームが不明瞭とされた理由を明示したCAFC判決
本CAFC判決においてクレームの用語(「about」の使用)によって不明瞭とされた。本件を一言でいうと、「about」の使用自体が問題ではなく、「about」の幅を特定できないことが問題だった。即ち、明細書を参酌し、当業者が合理的確実性をもって「about」の範囲が理解できるように明細書のサポートが必要だった。さらに、経過書類において「about」という用語の使用に整合性をもたせるべきだった。
Summarized by Tatsuo YABE on 2026-05-20
―「about」の使用と不明瞭性(Indefiniteness)―l
1.事案の概要
権利者:Enviro Tech Chemical
Services
被疑侵害者: SAFE FOODS CORP.,
問題となった特許:US 10,912,321
発明の概要:
本件は、家禽(鶏肉)処理工程において、過酢酸(peracetic
acid)を用いた処理方法に関するものである。
問題となったクレーム1:
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Claim 1 |
和訳概要 |
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1. A method of treating at
least a portion of a poultry carcass with peracetic acid, said method
comprising the steps of: |
1. 家禽の枝肉(チキン)の少なくとも一部を過酢酸で処理する方法であって、以下の工程を含む方法: [a] 貯槽内に、過酢酸を含む水溶液を準備する工程であって、当該水溶液は、水と、抗菌効果を有する量の過酢酸溶液とを含む工程;[b]前記過酢酸含有水溶液を準備した後に、当該水溶液のpHを測定し、アルカリ源を添加することにより、そのpHを約7.6~約10に調整する工程; [c] 前記pHの測定および調整の後に、 前記過酢酸含有水溶液中に、家禽の枝肉(チキン)の少なくとも一部を投入する工程; [d] 前記枝肉(チキン)の少なくとも一部を前記水溶液中に投入した後に、枝肉が存在する状態の当該水溶液のpHを再度測定し、アルカリ源を添加することにより、そのpHを約7.6~約10に再調整する工程;および [e] 前記pHの測定および調整の後に、前記水溶液から前記枝肉の少なくとも一部を取り出す工程。 |
Enviro TechはSAFE FOODSを相手に侵害訴訟を提起したが、被告はクレームの以下の用語が不明瞭であると主張した:
地裁は両者を不明瞭と判断した。
2.争点:
“about 7.6 to about 10” の範囲は?「about」によって下限値、上限値はどこまで広がるのか?
上記のように、クレーム1は、処理液のpHを以下のように調整する工程を規定している:
“adjusting the
antimicrobial solution to a pH of about 7.6 to
about 10 by adding an alkaline source.”
3.法的枠組み(Indefiniteness)
米国特許法112条(b)項は、クレームが発明を「明確に特定(particularly point out and distinctly claim)」することを要求する。最高裁 Nautilus v. Biosig (2014年)によれば、当業者が「合理的確実性(reasonable certainty)」をもって発明の範囲を理解できない場合、クレームは不明確(112条(b)の要件を満たさない)となる。
4.なぜ本件で「about」が不明瞭とされたのか
CAFCはクレームで厳格な数値限定を回避するために「about」あるいは「approximate」と言う用語が適切に使用される場合にはその使用を許容してきた。Ortho McNeil Pharm v. Caraco Pharm 476
F.3d 1321 (Fed. Cir. 2007) 程度を示すために、「about」、または、「approximately」と言う用語を使用することはそれ自体でクレームが不明確であるというわけではない。 See Berkheimer 881 F.3d at 1364; see also Amgen Inc. v.
Chugai Pharm. 927 F.2d 1200 (Fed. Cir. 1991). しかし、近似(approximation)を示す用語を使用する場合には、問題となる事案の技術において合理的に明確でなければならない。 Ortho-McNeil, 476 F.3d (quoting Pall,
66 F.3d at 1217; Amgen, 927 F.2d at 1218 (about 160,000 IU/AUは明細書、経過書類、及び、引例を考慮してもどのくらいのレンジを含むかを示す記載がなかったためクレームは不明確と判断された)。
本件において、「about」の使用がクレーム1を不明確にするか否かを判断するにおいて「intrinsic evidence(内部証拠)」の分析が重要である。
「about = 曖昧語」を使用すること自体は問題ではないが、その曖昧さの“幅”が分からないことが問題である。
(1)クレームからはaboutがどこまでの範囲を含むのか不明
クレームには:
についての指針が一切ない。当然のことながら、クレーム単体では範囲が全く特定できない。
(2)明細書の記載が“矛盾”している
明細書では:
特に商業スケールの試験では±0.5が許容されていた。
どちらが「about」の意味なのか決まらない。明細書が「多くを語りすぎたこと」が逆に不明確性を生んだ。
(3)出願経過(prosecution history)が不整合
出願人は審査経過において、クレーム1を補正する際の意見書では「about」を使わずに議論したが、しかし同じ意見書の次のページでは他のクレームの特許性を主張する際には「about」を使っていた。 さらに、意見書において、「about」の意味について、その度合い(許容幅)を一度も説明していない。このように審査経過の意見書では、あるクレームには「about」が意味をなし、他のクレームでは「about」は意味をなさないというように整合性が欠けていた。クレームや明細書だけでは不確実性が残る場合、その不確実性を解消しないまま審査経過で不整合な説明がなされると、クレームは不明確となる。
Infinity Comput. Prods v. Oki Data Ams., 987 F.3d 1053 (Fed. Cir. 2021)
(4)先行技術との“接近”が決定打
5.まとめ:
本件を一言でいうと、「about」の使用が問題ではなく、「about」の幅を特定できないことが問題だった。即ち、明細書において、「about」がどの程度の幅を許容するかが一切説明されていなかった。さらに、数多い実施例において目標とするpHに対する近似値が0.3~0.5の範囲でばらつきがあった、さらには意見書において「about」と言う用語の使用に整合性が欠落していた。
そもそもpHは「水素イオン濃度(正確には活量)」を測る指標であり、対数で表したもので、さらに言うと水素イオンの活動状態を電位差として測り、それを数値に変換しており、温度、電極、溶液の状態で変わるので機械部品の寸法(長さ、幅、半径など)とは決定的に異なる性質を備えている。故に、pHの真の値自体が揺らぐので測定値は本質的にはある条件下における近似値である。従って、本件特許においてはpHの測定方法を特定し、測定誤差を±0.3等と一貫して説明しておき、(例外があるなら、商業規模では±0.5と記載)これがクレームの「about」に対応すると当業者が理解できるように明細書で記載しておくべきだった。
別の対応としては、そもそもクレームで「about」を使わないというのが懸命であったと考える。独立クレームでは最も広いpHのレンジを規定し、従属クレームで徐々にレンジ幅を縮小するというようなクレームドラフティングが望ましい(勿論明細書にそのサポートがあることが前提)。1997年のWarner-Jenkinson判決においてpHの下限値6.0を追加した理由は不明だったが経過書類禁反言が生じ、被告の形態pH5.0は排除された(非侵害)。しかし、WJ判決の下級審(地裁とCAFC)において被告の形態pH5.0はクレームの下限値pH6.0の均等の範囲と解釈された。言い換えると、WJ判決のHilton-Davis特許において下限値pH6.0が原クレームに規定されていれば地裁とCAFCは被告の形態pH5.0に対して3要素テスト(機能・手法・結果の実質同一性)を適用し均等の範囲と判断したのである。
以上
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参考:
合衆国最高裁判決
Warner-Jenkinson v. Hilton Davis
520 U.S. 17 (1997)
特許を取得するために減縮補正された構成要素には経過書類禁反言が働き当該構成要素にはDOEの適用を制限する。特許を取得するという目的で減縮補正されたか否かが明白でない場合には、当該補正は特許を取得するために行われたと推定を受けると判示した。
尚、本件において、出願段階で水素イオン濃度をpH6.0〜9.0に補正した。経過書類を参照すると、上限値pH9.0については、引用例との識別のためであることが明らかであったが、下限値pH6.0の補正理由については明示されていなかった。したがって、下限値pH6.0に均等論を適用可能か否かが争点となった。 上述のとおり、補正理由が不明な場合には、当該補正は特許性を確保するためのものと推定され、均等論の適用が禁止されるのが原則である。
しかし本件において、仮に均等論の適用が認められたとしても、被告実施態様におけるpH5.0が本件クレームの技術的範囲に属するとは、当業者の観点から到底認められないだろう。なぜなら、pHの数値は対数スケールによるもので、長さや重さのような線形スケールとは異なり、pHが1異なるだけで水素イオン濃度には10倍の差が生じる。すなわち、pH5.0の水溶液はpH6.0の水溶液に比べて10倍酸性が強く、その差は実質的なものであり、Graver Tank判決のトリプルテストの「実質的に同一の手法」を満たさないだろう。(筆者)
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■ 特許権者:Hilton-Davis
■ 被疑侵害者: Warner-Jenkinson
■ 特許:USP 4,560,746 (水素イオン濃度ph 6.0-9.0の環境下において半透膜を通して不純物を濾過する方法)

権利者は特許出願審査中にpHの数値を6.0~9.0に限定した。上限値 pH9.0は引例と識別するために補正されたことは経過書類から明らかであったが、下限値 pH6.0が追加された理由は明らかではなかった。 被告の実施形態ではpH5.0レベルで濾過装置を操作していた。 地裁において被告の実施形態は侵害であると判断し差し止め命令を発令し、CAFC大法廷においても陪審の判断は十分な証拠に基づくもので被告の形態にはクレームと実質的な差はないと判断した。当該判決を不服とし被告Warner-Jenkinsonは上告し本判決に至った。
■ 最高裁による判示事項:
(1)DOE(均等論)はクレームの構成要素(an element-by-element)ごとに判断すること。
(2)PHE(Prosecution History Estoppel:出願経過による禁反言àDOE適用無し)はDOEに妥当な制限を課す。 審査過程においてクレームの文言に補正があれば全てPHEが適用されるわけではない。本事件においては、pH9.0は引例と識別するために補正されたことは明らかであるが、下限値pH6.0が追加された理由は明らかではない。但し、DOEの適用を受けるためには出願人がその補正理由が特許を得る実質的な理由のためではなかったということを説明する責任を負う。その説明がなされない場合には当該補正は特許を得るためになされたものであると推定される。
(3)侵害の意図とDOEの適用は無関係。
(4)DOE判断は侵害時。
(5)DOE判断は裁判官の専権事項か否かは本事件では判断しない。
(6)DOE判断基準であるGraver Tank事件のFWRテスト、或いは、非実質的相違テストに関しては専門家であるCAFCが今後より洗練していくべきである。