119期 米国上院司法委員会(101条改正法案に対する知的財産委員会聴講会)
101条改正法案(Patent Eligibility Restoration Act:PERA)
2026年7月14日(火曜)
Summarized by Tatsuo YABE on 2026-07-16
背景:
2012年のMayo最高裁判決と2014年のAlice最高裁判決において101条の特許適格性に対する判断基準が判示された。即ち、以下の2パートテストで判断する:
Part 1:クレームが司法例外(Judicial Exception)に該当するかを判断する。
Part 2:該当する場合、クレーム全体としてその例外を「顕著に超えている」か、すなわち「発明概念(inventive concept)」が存在するかを判断する。
ここで「顕著に超えているか」という問いはクレームに「発明概念(“inventive concept”)」が存するか否かを判断していると最高裁は述べた。 しかし「発明概念 (inventive concept)」は102条の新規性、或いは、103条の非自明性(進歩性)で本来は判断されるべきものである。即ち、最高裁の関与によって101条の判断基準が不明確になった。2014年(Alice判決)以降、審査、裁判においてもMayo/Aliceの法理をどのように適用するべきかが混乱を極めた。2019年にIancu氏(USPTO元長官)はMayo/Aliceの2パートテストのパート1に対して審査のガイダンスを公表し、その後、審査における101条の判断基準はある程度安定してきた。とは言え、Iancu氏のガイダンスはAlice/Mayoテストの矛盾点を根本から解決するには至らなかった。
その後、幾度となく101条関連の事件が最高裁に上告されたが全て不受理となった。極めつけは2022年のAxle事件で駆動軸というメカの構成要素にフックの法則を利用しているという発明であり、この事件が上告受理され最高裁がMayo/Aliceの法理論をより分かり易く説示することを期待されたが不受理となった。この事件を最後に、司法解決は望めないということを知財関係者は腹を括った。故に、最後の手段は立法であり2022年から特許適格性回復法案(Patent Eligibility Restoration Act:PERA)が起草され、毎年、少しずつ改訂され昨年バージョン(S1546)が最も近時の法案である。2022年の法案から抜本的な修正はなく基本は何が特許不可(適格性無し)なのかを列記するという法案である。
委員長を務めるTills上院議員は2022年のPERAから熱心に関与しており、今期(119期)で上院の任期満了となる(次期選挙には出馬しない)のでTills氏にとっては今回が最後のPERA公聴会となる。
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Thom
Tills上院議員(共和党)が委員長且つ議事進行(PERAの初期から関与)
Chris
Coons議員(民主党)Ranking memberではないがPERAの共同提出者として参加
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Thom Tills議員(共和党) |
Coons議員(民主党) |
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証人(Tills氏に招致された証人)
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証人 |
所属 |
立場 |
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Andrei Iancu |
元USPTO長官 |
PERAを強く支持 |
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J. John Lee |
Computer & Communications Industry Association (CCIA) |
PERAに反対 |
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Dr. Debra G.B. Leonard |
Univ. of Vermont |
遺伝子特許復活に強く反対 |
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Sue Peschin |
Alliance for Aging ResearchのCEO |
PERA支持(診断技術保護) |
■ Andrei Iancu

PERAを強く支持
Alice/Mayo最高裁判決以降、101条は混乱している。その根本理由はAliceの2パートテスト(「特にステップ2では101条判断に「発明概念」の存在をみると述べた」)は101条の適格性要件と特許性の要件(新規、非自明、発明の十分な開示と明確な請求項)とが混ざってしまった。
最高裁の判決によって、そもそも101条の判断基準が不明となり、米国特許に対する信頼性が揺らいだ。
2019年にIancu氏が作成したUSPTOガイドライン(101条審査のガイダンス)は有効であったがAlice判決の法理論(Aliceの2ステップテスト)に対する根本的な解決には至らなかった。
Alice判決、2014年以降に幾度も最高裁に101条関連事件の上告があったが全て不受理となり、最高裁による解決はほぼ不可能となった。 故に、101条判断基準を解決できるのは連邦議会(立法)だけとなった。
■ J. John Lee

PERA反対
現在のAlice判例でも、AI特許は多数成立している。Alice/Mayoの法理論は十分適用可能である。 「101条の判断基準が壊れている」という議論は誇張である。統計データによるとCAFCではAlice以降85%がAffirm(支持)されている。つまり、裁判所はAlice/Mayoの法理論を十分一貫して適用している。
Lee氏が「判例は一貫している」と述べたのに対し、PERAの共同提出者であるChris Coons議員よりConsistently bad (一貫して悪いだけだ)と応酬。現在の101判例に非常に批判的でした。
[筆者の意見] そもそもCCIA(Computer
& Communications Industry Association)とは、Google、Amazon、Meta、Intelなど、主としてIT・プラットフォーム企業を会員に持つ業界団体で、2014年のAlice判決以降、ソフトウェア関連の広範な特許が101条で排除されるケースが増え、大手IT企業はそれによって訴訟リスクが下がったという側面がある。そのため、PERAによって101条適格性の範囲を広げると、ソフトウェアやAI分野での侵害訴訟が増えるのではないかという懸念を持つこと自体は、これら企業を代表する立場としては理解できる。ただし、その懸念と「101条の法理・判断基準が明確で予測可能であるべきか」という問題は別である。
■ Dr. Debra G.B. Leonard

Leonard市は病理学者で、Myriad判決以前は遺伝子特許の存在により自分の研究室では4種類の検査を中止せざるを得なかった。またライセンス料により患者負担も増えた。したがってPERAによってMyriad判決以前へ戻ることを懸念している。つまり患者アクセスを最重要視していた。 [筆者: 発言の内容を聞いているとLeonard博士は、PERAはMyriad判決(2013年:「単離されたDNAは特許適格性なし」)のまえ、すなわち、「単離されたDNAは適格性を満たす」に戻すと理解して発言していたようだ・・]
途中でIancu氏がPERA(S1546)はMyriad判決の法理を成文化していると説明した。即ち、2013年のMyriad判決においては、乳癌(或いは子宮がん)の発生率を予測するのに適した遺伝子を発見し、それを単離したという発明が101条を満たさないと判断された。即ち、単離された遺伝子は如何にその遺伝子の箇所を見つけるのが困難であったにせよ単離された遺伝子は人体に存在するそのものであるので特許不適格となった。2025年のPERA(S1546)では遺伝子自身は単離されたとしても101条(特許適格性)を満たさないと規定されている。
■ Sue Peschin

患者団体(Alliance for Aging Research)の代表者
PERA支持
現在の101条の判例基準(Alice/Mayoの法理)では診断技術への投資が激減した。特にSequenom事件(Ariosa v. Sequenom)を例に挙げ画期的診断法が特許無効となったことを問題視。発明者が時間と費用を投じたのであれば、その成果をライセンスできる権利がある。つまり患者の利益を守るには診断技術への投資が必要という考えでPERAを支持している。
注:Ariosa Diagnostic v. Sequenom において、CAFCは、Mayo/Aliceの法理を適用し、米国特許第6,258,540号特許における、母体の血漿または血清における胎児由来の父系遺伝核酸を検出する方法(胎児ゲノムの非侵襲的出生前検査)に係るクレームは適格性がないと判断した。
■ 筆者コメント:
今回(第119議会)がPERA成立の最大のチャンスかもしれない。2022年からPERA法案成立に熱心なTillis議員(公聴会の委員長)が今期で引退を表明しており、在任中の最後の最優先課題と明言している。 同じくPERA成立に熱い民主党のCoons議員との超党派体制が今日まで維持されている。 AI・バイオを巡る国際競争が一段と激しくなっており、米国特許の信頼性の揺るぎ(特許適格か否かの判断基準が不明確)は米国経済に多大な打撃となる。
2022年にPERAが初めて公表された頃と2026年では、PERAを取り巻く政治的な意味合いが変わってきている。 2022年は「Alice/Mayoの法理を是正する特許法改正」という色彩が強かった。しかし2026年は「AI・バイオ・先端技術で米国の競争力を維持するための基盤整備」という文脈で語られる場面が増えている。 今回の公聴会でも、特許法の専門論だけでなく、米国の技術競争力やイノベーション政策との関係が何度も言及されている。 そのため、PERAが「特許法改正」にとどまらず、「産業政策」の一部として認識され始めていることが、今後の成立可能性を押し上げる要因になり得る。
もっとも、PERA成立には、その後、上院本会議、下院というハードルが残るので、実際の成立までにはなお政治的な調整が必要である。 なお、この法案は今年秋以降に「Markup(加筆・修正)」が実際に行われるかどうかが、成立可能性を判断する最初の大きな分岐点になると考える。
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参考:
法案(S1546:2025年5月1日に上院に提出)の概要は以下の通り:
SECTION 1:
本案は2025年特許適格性回復法案(“Patent Eligibility Restoration Act”)と称する。
SECTION 2:
連邦議会は昨今の特許適格性に関して以下のように考える。
(1)特許保護適格性(101条)に対する昨今の法解釈を大胆に変更、且つ、明確にする必要がある。
(2)最高裁及び他の裁判所において101条の適格性に対して司法の例外を創出したがゆえに多くの発明の特許適格性が否定された。
(3)上記(2)による司法の例外によって裁判所の判断、及び、特許の実務家に多大な混乱を招いた。
(4)CAFC及び連邦地裁の多くが101条の適格性判断に対するより詳しいガイダンスの必要性を切実に望んでいる。さらに、特許権者及び実務家の多くも101条の適格性の判断基準が混乱を極めており、当該基準を自信を持って適用できないと不平を述べている。
(5)本改正法案によって、101条の適格性を以下のように明確化する:
(A)過去の司法による例外規定を全て排除する;
(B)改正法案の(D)及び(E)で列記するものを除いて如何なる発明または発見も適格性を有する;
(C)102条、103条、112条が特許性を判断する要件であり、これら要件を適格性判断に用いてはならない;
(D)以下は適格性がない:
(i) 発明の部分を構成しない数学の公式(101条、(B)のカテゴリーに属する);
(ii) 人間の思考のみ(人の精神活動のみ);
(iii) 人の体内に存在する遺伝子そのもの;
(iv) 単離されてはいるが、人の体内に存在する遺伝子そのもの;
(v) 自然界に存在するそのもの;
(vi) 実質的には経済、金融、ビジネス、社会、文化、または、芸術に関わる方法;
(E)上記(D)(vi)において
(i) 人によって行われる方法であって、ビジネス手法、ダンスの動作、結婚の申し込みの仕方、及び、それに類する方法、さらに実質的なコンピューターの機能に関連することなく、例えば、単に「・・・をコンピューターで実行する」と記載する場合には適格性を満たさない;さらに、
(ii) 機械(コンピューターを含む)或いは製法を用いないと現実的には実行できないプロセス(方法)は適格性を満たす;
SECTION 3:
(a) 米国特許法 Chapter 10(Patentability of Inventions)を以下のように改訂する:
第100条
(a)(1)(b)にて
(A)略す;
(B)次のパラグラフを100条の終わりに追加する:
発明或いは発見という用語に対し「有用な(useful)」とは当業者の目でみて特定且つ実用的な有用性があるという意味である。
101条: 特許適格性
(a) 一般: 有用な、プロセス(方法)、機械、製造物、或いは、物の組成を発明又は発見、或いは、それらを改良した者はだれでも、以下(b)項で規定する例外をクリアし、且つ、本条文で規定する条件と要件を満たすことによって特許を受けられる:(「新規」を削除している:筆者注)
(b)適格性を有さないもの:
(1) 以下のようにクレームされたものは適格性がない:
(A) 数式であって、上記(a)項に属するクレームの一部を構成しないもの;
(B) (i) プロセス(方法)であり、少なくとも1つのステップは機械又は製造物を参照しているが、実質的には経済、金融、ビジネス、社会、文化的、或いは、芸術的なもの;
(C) プロセスであって、
(i) 人間の思考によってのみ機能するメンタルプロセス;
(ii) 人間の行動とは独立、且つ、人間が行動する前から自然に起こるプロセス;
(D) 人体に存在する組み換えされていない遺伝子;
(E) 自然界に存在する改変されていない自然のもの;
(2) 条件:
(A)上記(1)(A)及び(B)において、機械或いは製造物を利用せずには実質的には機能しないものは適格性を否定されない;
(B)上記(1)(D)において、以下の場合には、人の遺伝子は改変されていないとはされない(改変されている)
(i) 人によって、精製、濃縮、又はその他の方法で変更されたもの; 又は
(ii) 有用な発明或いは発見に使用された場合;
(C) 上記(1)(E)において、以下の場合には、自然界に存在するものは改変されていないとはされない(改変されている)
(i) 人によって、単離、精製、濃縮、又はその他の方法で変更されたもの; 又は
(ii) 有用な発明或いは発見に使用された場合;
(c) 適格性
(1) クレームされた発明が適格性を備えているか否かは、次のように判断する:
(A) クレームの構成要素の何れも除外することなく、クレームされた発明全体として検討する;
(B) 以下は考慮に入れない;
(i) クレームされた発明に至った経緯;
(ii) クレームの構成要素が、周知、一般的、習慣的、或いは、自然に発生するか否か;
(iii) 発明が為された時点での技術水準;
(iv) 本条文で規定する新規性、進歩性、或いは、記載要件;
(2) 侵害
(略す)
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現在の101条(1952年に立法)
新規かつ有用なプロセス、機械、生産品、組成物、またはそれらの新規かつ有用な改良を発明ないし発見した者は、本法に定める条件および要件に従って特許を受けることができる。
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U.S.C. 101 – Inventions patentable
Whoever invents or discovers any new and useful process, machine,
manufacture, or composition of matter, or any new and useful improvement
thereof, may obtain a patent therefor, subject to the conditions and
requirements of this title.