MPEP(8th Version; 7th Edition) 

 

Sections 2141〜2145

Obviousness

 

(自明性に関わるセクション)

 

(2008年8月18日に公開されたPTO特許審査便覧の内容)

 

2007430日のKSR最高裁判決及び同年1010日から施行された自明性拒絶のガイドラインに鑑みてMPEP2141MPEP2145は大幅に改訂された。 同改訂されたMPEPの当該セクションの内容を取りまとめるとともに、米国特許Prosecutionに携わる実務者が自明性拒絶に反論するときに活用できる箇所を紫色で示す。


 Tatsuo YABE

 on October 13, 2008

 

   

 

以下MPEP2141MPEP2145の抜粋

 

2007年4月30日のKSR最高裁判決、及び、同年10月10日から施行された自明性拒絶のガイドラインに鑑みて2008年8月18日された新米国特許審査便覧MPEPのセクション2141〜2145は大幅に改訂された)

 

103条拒絶に対する反論の素材となりそうな部分の抜粋であり、各サブセクションに関しては対応するパラグラフの見出しと前段部の重要と思える箇所を抄訳したものなので、より詳細、且つ、正確な内容が必要な場合にはMPEP本文を参照ください。)

 

 

 

MPEP 2141 Examination Guidelines for Determining Obviousness Under 35. U.S.C. 103

 

I.  The KSR Decision and Principles of the Law of Obviousness

 

II. The Basic Factual Inquiries of Graham v. John Deere Co.

 

自明性の判断は事実関係の調査に基づく法律問題である。 2007年KSR最高裁判決(KSR International Co. v. Teleflex Inc. 82 USPQ2d 1385 (2007))で確認されたように、事実関係の調査はGrahamファクター(1966年の合衆国最高裁判所判決)に基づき実施されること: Graham v. John Deere Co., 148 USPQ 459 (1966)

 

(A)          先行技術の範囲と内容;

(B)          先行技術とクレームされた発明との差異を明確にする;

(C)          当業者のレベルを解明する;

 

(D)          2次的事項(客観的要素:長期に渡る必要性と失敗;市場での成功など)を考察する;

Grahamファクター)

 

審査官は事実調査・解明に関与する人である;

 

III. Rationales to Support 103 Rejection:

上記(II)のGraham事実究明が終了した後に、審査官はクレームされた発明が自明であるか否かを判断しなければならない。 自明性拒絶をするときの根拠として妥当な理由は以下を含む(以下の理由に制限されることはない);

 

(A) 周知の方法に基づき先行技術の要素を組み合わせ予想される効果(結果)を得る場合

(B) 一つの周知の要素に置換することによって予想される効果(結果)を得る場合

(C) 類似した装置(方法又は製品)を改良するために周知の技術を周知の手法で使用する場合;

(D) 改良の準備が整っている周知の装置(方法、又は、製品)に、既知の技術を適用することによって予想される効果(結果)を得る場合

(E) “Obvious to try”― 妥当な成功の可能性をもって、特定され、予想される有限数の中から選択する場合;

(F) 一つの分野における周知の業は、当業者によってその代替案(変更)が予測可能な場合には、設計上の必要性(動機付け)、或いは、市場ニーズ(市場を動かす力)に基づいて、同分野或いは違う分野においてそれを変更し使用することを助長すると考えられる場合;

(G) 先行技術を変更し、或いは、先行技術の教示内容を組み合わせてクレームされた発明に到達するように当業者を導くような教示・示唆・動機付け(TSM)が先行技術にある場合;

 

IV. Applicant’s Reply:

審査官がGraham事実関係を確定し、クレームされた発明を自明と判断する結論に到達した時点で、反証責任は出願人に移行する。 出願人は(A)審査官が事実認定を間違ったことを証明する; 又は、(B) 他の証拠を基にクレームされた発明の非自明性を証明することができる。 37CFR1.111b)の規定に基づき、出願人は審査官の間違いを明白且つ具体的に指摘し、拒絶通知で示された異議・拒絶理由の全てに応答しなければならない。

 

V. Consideration of Applicant’s Rebuttal Evidence:

初期の自明性判断を再検討するときに、審査官は出願人が規定された期限内に提示する全ての反論証拠を検討しなければならない。 反論証拠は二次的証拠(市場での成功、長期に渡る必要性の認識且つ不成功: グラハム判決)も含む。

 

MPEP 2141.01 Scope and Content of the Prior Art

 

              1. Prior art available under 35USC102 is available under 35 USC 103

              Graham判決のテストを適用する前に、引例として使用する特許および刊行物が102条の基に引例になるか否かを判断しなければならない。 Panduit Corp. v. Dennison Mfg. Co., 810 F.2d 1 USPQ2d (Fed. Cir.)

 

              2. Substantive content of the prior art

              MPEP2121-2129を参照;

 

              3. Content of the prior art is determined at the time the invention was made to avoid hindsight

              引例の開示内容を発明がなされた時点で判断するという要件は後知恵による検討を避けるためである。 それは困難であるが、自明性を判断する者はクレームされた発明の開示内容を知る前の状態にマインドをリセットして判断しなければならない。 W.L. Gore & Assocaites Inc. v. Garlock, Inc., F.2d 220 USPQ (Fed. Cir. 1983)

 

              4. 35 U.S.C. 103(c) – Evidence required to show conditions of 103(c)

 

              出願人が103条(c)項の適用(自明性判断の例外規定)を受けようとする場合には、特許しようとする主題に対する引例が102(e),(f),(g)のいづれかに該当することと、発明がなされた時点において同一人に所有されているか、同一人に譲渡することになっていたことを証明しなければならない。 Ex Parte Yoshino, 227 USPQ52 (Bd. Pat. App. & Inter. 1985)

 

              さらに、出願が20041210日以降に継続している状態にある場合で103条(c)項(自明性判断の例外規定)の共同開発の例外規定を受けようとする者は以下の事項を証明しなければならない:

 

              A) クレーム主題である発明がなされた時点或いはそれ以前にクレーム主題が共同開発に合意したる者によって実施された;

              B) クレーム主題たる発明が共同開発合意の範疇で実施された活動結果の産物である;

              C) クレーム主題を開示したる特許出願願書に共同開発に合意したる者の名前を開示しているか、或いは願書が補正されており、同名前を開示している。

 

2141.01(a): Analogous and Nonanalogous Art

 

省略

 

 

2141.02: Difference Between Prior Art and Claimed Invention

引例とクレームとの相違点を判断するには、クレーム用語を解釈することと、発明および引例をそれぞれ全体として検討する必要がある。

 

              1. The claimed Invention as a whole must be considered

              103条の基に、引例とクレームとの相違点を決定するにおいて、相違点自身が自明であったか否かを判断するのではなく、クレーム主題たる発明が全体として自明であるかを検討しなければならない。 Stratoflex, Inc. v. Aeroquip Corp., 713 F.2d 218 USPQ 871 (Fed. Cir. 1983)

 

              2. Distilling the invention down to a “gist” or “thrust” of an invention disregards “as a whole” requirement

              発明をその骨子或いは要まで蒸留するという分析の仕方は発明主題を全体として分析するという要件を無視することになる。 W.L. Gore & Associates, Inc. v. Garlock, Inc., 721 F.2d 220 USPQ 303 (Fed. Cir. 1983)

 

              3. Discovering source/cause of a problem is part of “as a whole” inquiry

              問題の原因が発見されるとその解決法は自明になるかもしれない、しかし特許可能な発明は問題の原因を発見するところに生じる場合がある。 この考え方が“発明主題を全体として”考えるという手法の一部分であり、103条の基に発明の自明性を判断する場合に常に検討されねばならない。In re Wiseman, 596 F.2d 201 USPQ 658 (CCPA 1979)

 

              4. Applicants Alleging Discovery of a cause of a problem must provide substantiating evidence

              問題の原因を究明したと主張する出願人は、その主張をサポートする宣誓書・宣言書または明細書において明白且つ説得性のある説明などの証拠を提出しなければならない。 In re Wiseman, 596 F.2d 201 USPQ 658 (CCPA 1979)

 

              5. Disclosed inherent properties are part of “as a whole” inquiry

            103条の基に発明が自明であるか否かを判断する場合に、まずは全体としての発明の輪郭を理解しなければならない。 In re Antonie, 559 F.2d 195 USPQ (CCPA 1977)

 

              6. Prior art must be considered in its entiety, including disclosures that teaches away from the claims

              引例はその全体(“as a whole”)を検討されなければならない、即ち、クレーム主題とは離反(矛盾)する部分も考慮されなければならない。 W.L. Gore & Associates, Inc. v. Garlock, Inc., 721 F.2d 220 USPQ 303 (Fed. Cir. 1983)

 

 

2141. 03: Level of Ordinary Skill in the Art

Factors to consider in determining level of ordinary skill

 

当業者(the person of ordinary skill in the art)とは発明時点において発明に関連する技術を周知していたと想定する仮想の人である。 そのような当業者のレベルを判断するために以下の項要素を検討に入れる:

 

              (1) 発明者が抱えた問題の種類;

              (2) 当該問題に対する引例の解決手段;

              (3) 当該分野の技術革新の速度;

              (4) 該当技術の洗練度;

              (5) 当該技術分野の実務者の教育レベル;

 

上記全ての要素を検討に入れる必要はなく、際立つ一つ或いはそれ以上の要素を考慮すれば良い。 In re GPCA (Fed. Cir. 1995); Custom Accessories v. Jeffrey-Allan Industries (fed Cir. 1986); Environmental Designs, Ltd v. Union Oil Co., (Fed. Cir. 1983)

 

当業者とはロボットとではなく、通常の想像力を備えた人である。 KSR International Co. v. Teleflex Inc., ( Sup Ct. 2007)

 

2142: Legal Concept of Prima Facie Obviousness

 

審査の各過程において誰が立証責任を負うのか?

 

出願審査においてまずは、審査官が「一応自明であるという結論」を支持する証拠を提示する責任を負う。 In re Rinehart 89USPQ 143 (CCPA 1976); In re Linter (CCPA1972); In re Saunders (CCPA 1971); In re Tiffin (CCPA 1971); In re Warner (CCPA 1967) 

 

審査官がこの一応自明であるということを立証する証拠を提示しない場合には出願人は非自明性を証明する証拠を提出する必要はない。 自明性の判断を適切に行うために、審査官は発明がなされる直前における仮想的な当業者に自分の身をおかねばならない。

 

Establishing a prima facie case of obviousness

 

103条拒絶を支持する要(かなめ)となるのは、クレームされた発明が何故自明であるかの理由を明確に述べることである。 2007年のKSR最高裁判決において、最高裁は、103条拒絶を支持する理由付け(根拠)は明白に説明されるべきであると説示した。 なお、CAFCは、自明性拒絶は単に自明であるという結論によって支持されるものではなく、自明とする法律判断を支持する合理性のある明白な理由付けがされなければならない。 In re Kahn (Fed. Cir. 2006);  KSR v. Teleflex (2007)

 

審査官が自明性拒絶をサポートする事実の存在を認識し自明性拒絶をする場合に、審査官は特許性を支持する出願明細書の開示および出願人の議論も考慮に入れなければならない。 自明性の判断は究極的にはすべての記録に基づく証拠の優越性の基準(“a preponderance of evidence”)による。In re Oetiker (Fed. Cir. 1992)  ここでいう証拠の優越性に基づく判断基準とは、どちらの証拠(自明性の証拠と非自明性の証拠)により説得力があるかという判断基準で行う。 

 

2143: Basic Requirement of a Prima Facie Case of Obviousness

 

KSR最高裁判決(2007年)は、Graham最高裁判決(1966年)で判示された自明性判断に対する機能的アプローチと一貫性のある自明性判断を支持する理由付け(論理的根拠)の幾つかを説示した。

 

自明性判断をサポートする理由付け(論理的根拠)の例を以下に示す:

 

(A) 周知の方法に基づき先行技術の要素を組み合わせ予想される効果(結果)を得る場合

(B) 一つの周知の要素に置換することによって予想される効果(結果)を得る場合

(C) 類似した装置(方法又は製品)を改良するために周知の技術を周知の手法で使用する場合;

(D) 改良の準備が整っている周知の装置(方法、又は、製品)に、既知の技術を適用することによって予想される効果(結果)を得る場合

(E) Obvious to try”― 妥当な成功の可能性をもって、特定され、予想される有限数の中から選択する場合;

(F) 一つの分野における周知の業は、当業者によってその代替案(変更)が予測可能な場合には、設計上の必要性(動機付け)、或いは、市場ニーズ(市場を動かす力)に基づいて、同分野或いは違う分野においてそれを変更し使用することを助長すると考えられる場合;

(G) 先行技術を変更し、或いは、先行技術の教示内容を組み合わせてクレームされた発明に到達するように当業者を導くような教示・示唆・動機付け(TSMが先行技術にある場合;

 

 

2143. 01: Suggestion or Motivation to Modify the Reefrences

 

1. The prior art suggestion of the desirability of the claimed invention

教示・示唆・或いは動機に基づき、先行技術の教示内容を組み合わせたり、改良することによって自明性を確立することは可能である。 In re Kahn, (Fed. Cir. 2006)

 

引例に2つ以上の代替案が開示されているということ自体で、クレームされた発明から離反するとはいえない、何故ならそれら代替案はクレームされた発明を批判したり、信頼性に疑義を提起するものでもなく、或いは、当該発明に至ることを妨げる内容ではない。 In re Fulton , (Fed. Cir. 2004)

 

裁判所は、引例を組み合わせることに対する動機付けが引例に明示されていなければならないという出願人の認識を否定した。 Ruiz v. A.B. Chance Co., (Fed. Cir. 2004)

 

2. Where the teachings of the prior art conflict, the examiner must weigh the suggestive power of each reference

二つ以上の引例の教示内容に矛盾がある場合、審査官は、当業者に対して解決策をどの程度示唆しているかのかという各引例の影響力を比較し、どの引例が他の引例の信頼性を格下げしているかを評価しなければならない。 In re Young, 927 F.2d 18 USPQ2d (Fed. Cir. 1991)

 

3. Fact that references can be combined or modified “May Not Be” sufficient to establish prima facie obviousness

先行技術文献を組み合わせることが可能である、あるいは、変更することが可能であるというだけで、そのような組み合わせが当業者にとって予見可能でない場合には、組み合わせによる結果(クレームされた発明)は自明とはならない KSR International Co. v. Teleflex Inc., (2007)

 

4. Mere Statement that claimed invention is within the capabilities of one of ordinary skill in the art is not sufficient by itself to establish prima facie obviousness

クレームの構成要素を教示する拒絶引例は当該技術分野において個々に周知であるので、引例を改良しクレームされた発明の構成要素を満たすことは当該発明がなされる前に当業者の技術範疇に十分属していたであろうという理由は、(引例の教示内容を組み合わせることに対する客観的な理由なくして)一応の自明性を成立させるのに不十分である。 Ex parte Levengood, 28 USPQ2d 1300 (Bd. Pat. App. & Inter. 1993)

 

5. The proposed modification cannot render the prior art unsatisfactory for its intended purpose

もし提案される改良が引例に実施された場合に引例の発明がそのもの本来の目的に対して機能しなくなる場合には、そのように引例を組み合わせる示唆あるいは動機が存在しないということである。 In re Gordon, 733 F.2d 900, 221 USPQ (Fed Cir. 1984)

 

6. The proposed modification cannot change the principle of operation of a reference

提案される改良あるいは組み合わせによって引例発明の操作原理が変更される場合には、同引例の教示内容は自明性拒絶を成立する根拠として不十分である。 In re Ratti, 270 F.2d 810, 123 USPQ 34 (CCPA 1959)

 

2143. 02: Reasonable Expectation of Success Is Required

 

クレームの自明性を結論づける理由付けとは、クレームの構成要素の全てが引例によって周知であり、当業者がクレームされた構成要素のように、引例に開示された要素を周知の方法で、且つ、各要素の機能を変更することなく組み合わせられ、その組み合わせによって予見可能な結果に至らしめる場合である。 KSR International Co. v. Teleflex Inc., (2007); Sakraida v. AG Pro Inc. (1976); Anderson’s-Black Rock, Inc. v. Pavement Salvage Co., (1969); Great Atlantic & P. Tea Co. v. Supermarket Equipment Corp., (1950)

 

1. Obviousness requires only a reasonable expectation of success

合理的な成功の見込み(期待)がある限りにおいて、引例を組み合わせて、あるいは、改良することによって一見したる自明性の基にクレームを拒絶できる。 In re Merck & Co. , Inc., 800 F.2d 1091, 231 USPQ 375 (Fed. Cir. 1986)

 

2. At least some degree of predictability is required; Applicants may present evidence showing there was no reasonable expectation of success

自明性拒絶をするときに、(引例の組み合わせに対する:筆者追記)成功の完璧なる見込みが要求されることはない、しかし、成功に対する幾分かの見込みが必要である。 従って、(引例の組み合わせが:筆者追記)成功するという合理的な見込みがないということを示す証拠を根拠に非自明性を主張することができる。 In re Renehart, 531 F.2d 1048, 189 USPQ (CCPA 1976)

 

3. Predictability is determined at the time the invention was made.

提案される引例の改良あるいは組み合わせが成功するという合理的な見込みが存在するか否かは発明がなされた時を基準に判断する。 Ex Parte Erlich, 3 USPQ2d 1011 (BPAI 1986)

 

2143. 03: All Claim Limitations Must Be Taught or Suggested

 

引例に対するクレームの特許性を判断するには、クレームの全ての文言を考慮されなければならない。 In re Wilson, 424 F.2d 1382, 1385, 165 USPQ (CCPA 1970)

 

独立クレームが非自明である場合には、同独立クレームから従属する全てのクレームも非自明である。 In re Fine, 837 F.2d 1071, 5 USPQ2d 1596 (Fed. Cir. 1988)

 

1.112条第2項で不明瞭と判断される構成要素も考慮に入れなければならない。 Ex Parte Ionescu (Bd. Pat. App. & Inter. 1984)

 

2. 明細書でサポートされていないクレームの構成要素も考慮に入れなければならない。 Ex parte Grasselli, (Bd. App. 1983) (Fed. Cir. 1984)

 

2144 Supporting a 103 Rejection

 

1. Rationale may be in a reference, or reasoned from common knowledge in the art, scientific principles, art-recognized equivalents or legal precedent.

 

引例を変更或いは組み合わせることに対する理由付けは適用しようとする引例に明白に記載されている必要はない。 それは引例に明示或いは暗示的に開示されていれば良い。 さらに、当業者が一般的にアクセス可能な知識、或いは、判例によって確立された法理論より理由付けされるものであっても良い。 In re Jones (Fed. Cir. 1992)

 

2. The expectation of some advantage is the strongest rationale for combining references

 

引例の組合せに対する最強の理由付け(根拠)は、それら引例を組み合わせることによって利益又は予期される有益な結果が生じるということが、引例に明示又は示唆されているか、或いは、科学原理又は法理を基礎とする説得力のある理論から認識される場合である。 In re Sernaker (Fed. Cir. 1983)

 

3. Legal Precedent can provide the rationale supporting obviousness only if the facts in the case are sufficiently similar to those in the application

 

審査官は、全ての事実関係を考慮した後に、法律を出願の各々に対して一貫性を持って適用しなければならない。 もしも判例の法理が審査中の出願における状況と十分に類似していると判断される場合には、審査官は同判例における理由付けを適用しても良い。 しかし出願人が特定のクレーム要素の重大性を証明できる場合には、判例の理由付け(法理論)にのみ依存し自明性拒絶を維持するのは妥当性を欠く。 In re Eli Lilly & Co. , (Fed. Cir. 1990)

 

4. Rationale different from applicant’s is permissible.

違う目的で、あるいは、違う問題を解決するために、発明者のなしたる発明物を生成することの理由あるいは動機がしばしば引例に示唆されている場合がある。 しかし、引例の示唆する組み合わせ・変更が出願人と同じ目的あるいは同じ結果を得るために開示している必要はない。 In re Kahn, 441 F.3d 78 USPQ2d (Fed. Cir. 2006)

 

2144.01: Implicit Disclosure

引例の開示内容を検討する場合に、引例に明瞭に開示された事項だけではなく、引例より当業者が合理的に導き出せるであろう推論も考慮に入れて良い。 In re Preda, 401 F.2d 159 USPQ (CCPA 1968)

 

2144.02: Reliance on Scientific Theory

103条拒絶の根拠となる理由を理論および科学原理に委ねても良い。 In re Soli, 317 F.2d 137 USPQ797 (CCPA 1963) 但し、そのような場合に審査官は当該科学原理の存在と意味合いを証拠を持って示さなければならない。 In re Grose, 592 F.2d 201 USPQ 57 (CCPA 1979)

 

2144.03: Reliance on Common Knowledge in the Art or “Well Known” Prior Art

 

適切と判断される特定の状況下において審査官は、証拠によることなく一定の事実の存在を認めること(公的な確知)によって、或いは、一般知識を基礎として自明性拒絶をすることができる。 しかしそのような自明性拒絶は慎重に行わねばならない。

 

A. 書面証拠によりサポートされていない一定の事実の存在を認める行為(公的な確知)は、当該事実が非常に良く知られたことであるか、または、当業者にとっての一般知識であって、即座に、疑問の余地のない証明が可能なものでなければならない。

 

B. 「確知」される事実が他の先行技術によって支持されているか、当該事実を確定することを否定する記録がないということで証明が可能な場合には、審査官は書面証拠を提示することなく公的な事実の確定(確知)をすることも可能である。 しかしそのような「確知」をする場合にはその根拠(理由)を明示しなければならない。 審査官は、書面証拠を伴なわず「確知」とする事実を何故確知とするのか、その根拠を明白に出願人に知らせなければならない。

 

C. 審査官が公的に「確知」する事実に対して、出願人が適切に反論するためには出願人は何故それが確知されるべきではないか(或いは当業者にとって一般知識ではないか)その理由を提示しなければならない。 

 

審査官が、ある事実を当業者の一般知識であることの根拠を自己の知識に依存する場合に、審査官は宣誓書或いは誓約書にて問題となる事実とその説明をしなければならない。

 

2144.04: Legal Precedent as Source of Supporting Rationale

判例の判示内容が審査中の出願の状況と類似している場合には審査官は当該判示を適用しても良い。 以下にその例を示す。 即ち、特許しようとする発明の本質が、以下の17に該当する場合には判例を基礎として自明と判断されるであろう。 但し、出願人が構成要素の特異性を証明できる場合には自明性拒絶に反論可能である。

 

1.      Aesthetic design changes;

2.      Elimination of a step or an element and its function;

@       Omission of an element and its function is obvious if the function of the element is not desired;

A       Omission of an Element with retention of the element’s function is an indicia of Non-obviousness;

3.      Automating a manual activity;

4.      Changes in size, shape, or sequence of adding ingredients;

5.      Making portable, integral, separable, adjustable, or continuous;

6.      Reversal, duplication, or rearrangement of parts;

7.      Purifying an old product

 

2144. 05 – 2144.09 Omitted

(化学・材料・バイオ関係の出願を担当される方には必読箇所)

 

 

2145: Consideration of Applicant’s Rebuttal Arguments

 

1.      Argument does not replace evidence where evidence is necessary

弁護士の主張は、それが自白でない場合には証拠にはならない。 

弁護士の議論は証拠の代わりをするものではない。 In re Schulze, 346 F.2d 600, USPQ716 (CCPA 1965)

 

2.      Arguing additional advantages or latent properties

引例のさらなる利点、或いは、隠れた特性(性質)を見つけることによって一応の自明性に反論することはできない。 In re Wiseman, 596 F.2d 201 USPQ658 (CCPA 1979)

⇒ 引例の潜在的な特徴(優位性或いは性質)を見つけたとしても、その発見自体がクレームされた発明と引例との離反度合い(相違の度合い)を証明する証拠にはならない(筆者注)。

 

3.      Arguing that prior art devices are not physically combinable

自明性を判断するときに、主引例の構成に2次的な引例の構成を物理的に組み合わせることができるか否かを基準として判断するものではない。 寧ろ、引例の技術を組み合わせるということが当業者にとって示唆されているものか否かという観点で判断されるべきである。 In re Keller, 642 F.2d 208 USPQ (CCPA 1981)

 

4.      Arguing against references individually

引例の組合せで拒絶されている場合に、拒絶引例を個別に反論することによって非自明性を証明することはできない。 In re Keller, 642 F.2d 208 USPQ (CCPA 1981); In re Merck & Co., Inc., 800 F.2d 231 USPQ 375 (Fed Cir. 1986)

 

5.      Arguing about the number of references combined

引例を数多く組み合わせて拒絶していると事実のみに反論することだけでは非自明性を主張することはできない。 In re Gorman, 933 F.2d 18 USPQ2d 1885 (Fed. Cir. 1991)

 

6.      Arguing limitations which are not claimed

クレームは明細書を参酌し解釈されるが、明細書中の特徴をクレームに読み込まない。 In re Van Geuns 988 F.2d 26 USPQ2d 1057 (Fed. Cir. 1993) 

⇒ 自明性拒絶に反論の根拠になるのはクレームで規定された構成要素であって、それに対応する明細書の記載ではない(筆者注)。

 

7.      Arguing economic infeasibility

経済性に基づくビジネスの判断によると引例同士を組み合わせないであろうという事実は、技術的に不適合であるので当業者が引例をそのように組み合わせをしないであろうということにはならない。 In re Farrenkopf, 713 F.2d 219 USPQ 1 (Fed. Cir. 1983)

 

8.      Arguing about the age of references

100年以上前の特許であっても自明性拒絶の根拠になる。

1920年の引例と1976年の引例では56年もの期間の差があるので当業者が組み合わせなかったであろうという主張は非自明性の根拠として説得性がない。 In re Wright, F.2d 193 USPQ 332, 335 (CCPA 1977)

 

9.      Arguing that prior art is nonanalogous

出願人の発明にかかわる技術分野の引例は類が同じであり、そうではない場合でも出願人の抱える特定の問題に合理的に関与する引例は同類である。 In re Oetiker, 977 F.2d 24 USPQ2d 1443, 1445 (Fed. Cir. 1992)

 

10.  Arguing improper rationales for combining references

 

A.      Impermissbile Hindsight

出願人は、審査官の自明性拒絶に対して、後知恵による不適切な推論(理由付け)であると反論できる。 おおよそ全ての自明性の判断は後知恵による推論を基礎とした「再構築」によるものであるが、それはクレームされた発明がなされた時点における当業者レベルの範疇でのみ実施され、出願人の開示から収集できる知識を基礎としない場合に限りそのような「再構築」は適切である。 In re McLaughlin 443 F.2d 170 USPQ209 (CCPA 1971) 出願人は、さらに、2つ又はそれ以上の先行技術を組み合わせることに対する明白な動機付けがないという理由で当該先行技術を組み合わせるということは後知恵によるものであると反論することも可能である。 しかし、先行技術を組み合わせることに対する明白な動機付けが存在することが自明性判断の必須要件ではない。 See Ruiz v. A.B. Chance Co., 357 F.3d 69 USPQ2d (Fed. Cir 2004) 

 

B.     Obvious to Try Rationale

出願人は審査官の自明性拒絶は「自明の試み(“obvious to try”)」という不適切な根拠に由来するものであると反論可能である。 

 

自明の試み(obvious to try)という自明性拒絶の理由付け(根拠)は、当業者が限られた数の特定され、予測可能な解決策の中から、妥当な期待(成功することに対する)を持って選択したであろうという場合に支持される KSR International Co. v. Teleflext Inc. (2007)

 

自明の試み(Obvious to try)の適用を誤った2つの例がある。 クレームされた発明は自明の試み(”obvious to try”)に依存するものであったであろうと判断されたが、それは引例にどのパラメーターが重要であるとか、全ての可能性の中でどの方向により成功があるかを全く開示していないのに、それら全てのパラメーターを変化させて試験をしてみること、或いは、全可能性に対して一つづつ成功するまで試験を繰り返すという場合。 他の判決における説示によると、クレームされた発明の形態に対する一般的なガイダンスしか開示していない引例によって「自明の試み」であったということは、新技術分野、あるいは、確からしそうな技術分野において探検するようなものである。  In re O’ Farrell, 853 F.2d 7 USPQ2d (Fed. Cir. 1988)

 

C.     Lack of Suggestion to Combine References

引例の組み合わせに対する動機付けあるいは示唆があるか否かは自明性の判断をする適切な手法であるが、それは数多くある判断基準(理由付け)のひとつに過ぎない。 KSR最高裁判決(2007年)において、最高裁は自明性を判断する上での理由付けの幾つかを例示した。 それらはGraham最高裁判決で判示された自明性判断をする上での機能的アプローチと整合性がある。

 

D.     References Teach Away from the Invention or Render Prior Art Unsatisfactory for Intended Purpose

以下の項目にプラスして、MPEP2141.02(クレームと相反する記載を含め、引例の全体を検討しなければならない)とMPEP2143.01(提案される変更は先行技術の本来の目的を不成功に導く、あるいは、引例の操作原理を変更してしまう)を参照のこと。

 

1.      The Nature of the Teaching is highly relevant

クレームされた発明を否定する引例の存在は自明性判断にとって重要な要素であるが、教示内容の性質というものは重要な関連性があり、十分に考慮に入れなければならない。 他の製造物と比較して同じ使用に対して幾分劣るという開示があるからというだけで、周知または自明の組成に特許性があることにはならない。  In re Gurley, 27 F.3d 31 USPQ2d (Fed. Cir. 1994)

 

2.      References cannot be combined where reference teaches away from their Combination

組み合わせに反対することを開示した先行技術を組み合わせるのは不適切である。 In re Grasselli, 713 F.2d 218 USPQ (Fed. Cir. 1983)

 

3.      Proceeding Contrary to Accepted Wisdom is Evidence of Nonobviousness

引例の全体を検討しなければならない、そして、その引例で妥当とされる知恵(知識)に相反するアプローチをするということは非自明の証拠である。 In re Hedges, 783 F.2d 228 USPQ685 (Fed. Cir. 1986) 

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米国特許自明性に対する条文

 

35 U.S.C. 103

Condition for Patentability: non-obvious subject matter

米国特許法第103条

特許要件(非自明性)

 (a) A patent may not be obtained though the

invention is not identically disclosed or described as set forth in section 102 of this title, if the differences between the subject matter sought to be patented and the prior art are such that the subject matter as a whole would have been obvious at the time the invention was made to a person having ordinary skill in the art to which said subject matter pertains. Patentability shall not be negatived by the manner in which the invention was made.

 

(b)(1) Notwithstanding subsection (a), and upon timely election by the applicant for patent to proceed under this subsection, a biotechnological process using or resulting in a composition of matter that is novel under section 102 and nonobvious under subsection (a) of this section shall be considered nonobvious if

(A) claims to the process and the composition of matter are contained in either the same application for patent or in separate applications having the same effective filing date; and

(B) the composition of matter, and the process

at the time it was invented, were owned by the

same person or subject to an obligation of assignment to the same person.

 

(b)(2) A patent issued on a process under paragraph (1)­

(A) shall also contain the claims to the composition of matter used in or made by that process, or

 (B) shall, if such composition of matter is

claimed in another patent, be set to expire on the same date as such other patent, notwithstanding section 154.

 

(b)(3) For purposes of paragraph (1), the term

“biotechnological process” means­

(A) a process of genetically altering or otherwise inducing a single- or multi-celled organism to

(i) express an exogenous nucleotide

sequence,

(ii) inhibit, eliminate, augment, or alter

expression of an endogenous nucleotide sequence, or

(iii) express a specific physiological

characteristic not naturally associated with said organism;

(B) cell fusion procedures yielding a cell

line that expresses a specific protein, such as a monoclonal antibody; and

(C) a method of using a product produced

by a process defined by subparagraph (A) or (B), or a combination of subparagraphs (A) and (B).

 

(c)(1) Subject matter developed by another person, which qualifies as prior art only under one or more of subsections (e), (f), and (g) of section 102 of this title, shall not preclude patentability under this section where the subject matter and the claimed invention were, at the time the claimed invention was made, owned by the same person or subject to an obligation of assignment to the same person.

 

(c)(2) For purposes of this subsection, subject

matter developed by another person and a claimed invention shall be deemed to have been owned by the same person or subject to an obligation of assignment to the same person if —

(A) the claimed invention was made by or

on behalf of parties to a joint research agreement that was in effect on or before the date the claimed invention was made;

(B) the claimed invention was made as a

result of activities undertaken within the scope of the joint research agreement; and

(C) the application for patent for the

claimed invention discloses or is amended to disclose the names of the parties to the joint research agreement.

 

(c)(3) For purposes of paragraph (2), the term

“joint research agreement” means a written contract, grant, or cooperative agreement entered into by two or more persons or entities for the performance of experimental, developmental, or research work in the field of the claimed invention.

 

(Amended Nov. 8, 1984, Public Law 98-622, sec. 103, 98 Stat. 3384; Nov. 1, 1995, Public Law 104-41, sec.1, 109 Stat. 3511.)

(Subsection (c) amended Nov. 29, 1999, Public Law 106-113, sec. 1000(a)(9), 113 Stat. 1501A-591 (S. 1948 sec. 4807).)

(Subsection (c) amended Dec. 10, 2004 , Public Law 108-453 , sec. 2, 118 Stat. 3596.)

 

(a) 発明が本法第102条に定めるごとく同一の内容で開示されていない、或いは表現されていなくとも、出願にかかわる技術と先行技術の間の差異が発明が成された時点において、当該技術の属する分野における当業者にとって、当該技術を全体として自明にせしめる場合、特許することはできないとする。 特許性は発明にいたる過程によって否定されてはならない。

 

(b)(1) (a)に拘らず,本項に基づき手続を続行するという特許出願人の時宜を得た選択に基づいて,第102条に基づく新規性を有し,かつ,(a)に基づく非自明性を有する組成物を使用するか又は当該組成物を生起させるような生物工学的方法は,次の場合は非自明であるとみなされる。

(A) 当該方法及び組成物に対するクレームが同一の特許出願又は同一の有効出願日を有する別の特許出願の何れかに含まれており,かつ

(B) 当該組成物及び当該方法が,発明された時点において,共に同一の人間に所有されていたか又は同一の人間に譲渡されなければならないという義務を課せられていた場合

 

(b)(2) (1)に関する方法に関して成立した特許は,

(A) 更に,当該方法において使用されるか又は当該方法によって製造される組成物に対するクレームを含むものであるか,

(B) 当該組成物が他の特許においてクレームされている場合は,第154条に拘らず当該他の特許の消滅日と同じ日に消滅するように設定されるものである。

 

(b)(3) (1)の趣旨に関し,「生物工学的方法」という言葉は次のことを意味する。すなわち,

(A) 次の目的のために,遺伝学的に単細胞若しくは多細胞生物を変換するか,そうでなければ誘発させる方法

(i) 外生的ヌクレオチド配列を示すため,又は

(ii) 内生的ヌクレオチド配列の表示を抑制し,消滅させ,増大させ若しくは変換させるため,又は

(iii) 単細胞若しくは多細胞生物と自然的な関連のない特別な生理学的特徴を示すため

(B) モノクロナール抗体のような特別の蛋白質を示す細胞列を生成する細胞融合工程,及び

(C) (A)若しくは(B)又は(A)と(B)との組合せによって定義されている工程によって生成された生成物を使用する方法

 

 

(c)(1) 他人によりなされた発明の主題が第102条(e),(f)及び(g)のうちの1又は2以上に基づいてのみ先行技術とすることができる場合,当該主題とクレームされている発明とが,その発明のなされた時点において,同一人により所有されるか同一人に譲渡しなければならない義務を負う状態にあったときは,当該主題は出願に係る発明の特許性を妨げるものではない。

 

(c)(2) 以下の要件を満たすときには他者によって開発された発明主題であっても同一人に所有されている、或いは、同一人に譲渡することになっていると看做す:

A) クレームされた発明主題は共同開発の合意したる、或いは、同合意を代表したる者によって実施されたものである;

B) クレームされた発明主題は共同開発の合意の範疇で実行された活動によって実施されたものである; 及び

C) 同クレーム主題に関わる特許出願の願書に共同開発者の名前が開示されているか、同願書が補正され同名前を開示している場合。

 

 

(c)(3) 上記パラグラフ(2)における共同開発の合意という用語は実験、開発、或いは、研究に関する業務を共同で遂行するための2つ以上の当事者による契約書面、認可、或いは、同意を意味する。

 

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矢部達雄

(1) US Patent Related 

(2) Case Laws 

(3) LINKS

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