CAFC判決

Pharma Tech Solutions v. LifeScan

20191122

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均等論(経過書類禁反言)

OPINION by STOLL (Moore and Reyna)

Summarized by Tatsuo YABE 2019-12-10

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本事案は経過書類禁反言(Prosecution History Estoppel)により均等論の適用が禁止されたことを示す分かりやすい判決である。

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本事案では審査経過において出願人は1度目の拒絶理由を克服するべくクレームを減縮補正した。 3度の拒絶を受けるものの出願人は第1回目の拒絶理由に対して減縮補正したクレームでもって引例との差異を主張し、最終的にはインタビューで権利化に持ち込んだ。第1回目の拒絶理由を克服するための減縮補正によりクレーム補正による禁反言(amendment-based prosecution history estoppel)が生じる。さらに、補正クレームの特許性を主張する反論(Argument)によって反論による禁反言(argument-based prosecution history estoppel)が生じる。2002年のFesto最高裁判決では、経過書類による禁反言が生じた場合にはDOEの適用を禁止するという推定が働くが、当該推定は特許を取得するための補正理由と被疑侵害の形態が僅かに関連するレベルであれば当該推定を反駁することができる。(以下の手順で均等侵害を判断する)

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[a] 文言上の侵害なし ➡ [b] 均等論の侵害は?➡ [c]クレームが減縮補正有り(Prosecution History estoppel) [d]減縮補正された構成要素にはDOE適用無しの推定が働く(presumption: No DOE applies to the amended elements) [e]補正理由と被疑侵害の形態に関連性が弱い➡ [f] DOE適用無しの推定を反駁可能 (Festo exception to the presumption)

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([e] a rationale underlying the narrowing amendment bears no more than a tangential relation to the accused product)

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特許権者(Pharma)はLifeScanの形態は文言上侵害していないことを認めるも、均等論侵害を主張した。均等論侵害を主張するために上記[e],[f]に依拠した。しかし、Pharmaの減縮補正と反論はconvertingcomparingという2つの特徴が引例との差異を出すために必須要件であると明白に経過書類に記録されており、それら2つの特徴を備えていないLifeScanの形態は明らかに非侵害(DOE侵害無し)という判断となった。

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★ 均等論に関する重要判決(最高裁とCAFC大法廷判決)へリンク(以上筆者)

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■ 事件の背景:

PharmaLifeScan家庭用の血糖値測定装置(OneTouch® Ultra®システム)がPharmaUSP 6,153,069を均等論の基に侵害しているとしNevada州地区連邦地裁に侵害裁判を提起した。地裁はPharmaの出願審査経過書類禁反言に鑑み均等侵害はないと略式判決を下した。当該略式判決を不服としてPharmaCAFCに控訴した。即ち、争点は経過書類禁反言によってDOEの適用が封じられるか否かである。

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■ 特許権者:PHARMA

■ 被疑侵害者:LIFESCAN

■ 関連特許:USP 6,153,069 (以下069特許)

■ 特許発明の概要:

当該特許は糖尿病患者が家庭で血液中のグルコース(血糖値)を測定するためのモニターシステムに関する。血中グルコース(血糖値)を測定するに際し、指先より採取した血液をテストストリップの端部に付着させた後に、テストストリップを測定具に挿入する。当該テストストリップには一対の電極(活性電極と第2電極)があり、活性電極は血液中のグルコースを酸化させるエンザイムで被膜されている。所定の培養時間経過後に測定具は電極間に電圧を与えることで拡散制限電流(コッテル電流)を生成し、その電流を測定する。このコッテル電流と血中グルコース濃度との間に比例関係がある。この比例関係を利用しマイクロプロセッサーが当該電流を血中グルコースレベルに変換することでユーザーが血糖値を認知できる。

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本特許発明においては当該測定においてユーザーの取り扱いに起因する変数(測定値に悪影響を及ぼす種々の要因)を除去しグルコース測定値をより正確に、且つ、信頼できるようにすることに主眼を置いた。一言でいうならば複数回コッテル電流を測定し互いに比較しそれらが妥当なレンジに入っているか否かでグルコースレベルが正しく測定できたかを判断する(筆者)。

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■ 代表的なクレーム:

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USP 6,153,069: Claim 1

1回目のOAに対応し、出願時のクレームにf)が追加された。

 

3回目の拒絶通知に対しインタビューを実施し、権利化された。

1. An apparatus for measuring compounds in a sample fluid, comprising:

a) a housing having an access opening therethrough;

b) a sample cell receivable into said access opening of said housing, said sample cell being composed of;

(i) a first electrode which acts as a working electrode;

(ii) a second electrode which acts to fix the system potential and provide opposing current flow with respect to said first electrode, said second electrode being made of the same electrically conducting material as said first electrode, and being operatively associated with said first electrode, the ratio of the surface area of said second electrode to the surface area of said first electrode being 1:1 or less;

(iii) at least one non-conducting layer member having an opening therethrough, said at least one non-conducting layer member being disposed in contact with at least one of said first and second electrodes and being sealed against at least one of said first and second electrodes to form a known electrode area within said opening such that said opening forms a well to receive the sample fluid and to allow a user of said apparatus to place the sample fluid in said known electrode area in contact with said first electrode and said second electrode;

c) means for applying an electrical potential to both said first electrode and said second electrode;

d) means for creating an electrical circuit between said first electrode and said second electrode through the sample fluid;

e) means for measuring a first Cottrell current reading through the sample fluid at a first predetermined time after the electrical potential is applied and for obtaining at least one additional Cottrell current reading through the sample fluid, the at least one additional Cottrell current reading occurring at a second predetermined time following the first predetermined time;

f) microprocessor means for converting the first Cottrell current reading into a first analyte concentration measurement using a calibration slope and an intercept specific for the first Cottrell current measurement, for converting the at least one additional Cottrell current reading into an additional analyte concentration using a calibration slope and an intercept specific for the at least one additional Cottrell current measurement, and for comparing the first analyte concentration measurement with the at least one additional concentration measurement to confirm that they are within a prescribed percentage of each other;and

g) means for visually displaying the results of said analyte concentration measurements.

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■ 出願経過

1回目のOffice Actionで問題となったクレーム(補正前)はKuhn引例;Pollmann引例及びSzuminsky引例で拒絶された。199710月に出願人は以下の特徴をクレーム1に追加し自明性拒絶に反論した。反論の骨子は、補正クレーム1はコッテル電流を少なくとも2回測定すること;複数回測定されたコッテル電流を測定対象(グルコース)濃度に変換すること;及び、変換された当該濃度を比較することを規定しておりそれら特徴が引例にはないということだ。

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f) microprocessor means for converting the first Cottrell current reading into a first analyte concentration measurement using a calibration slope and an intercept specific for the first Cottrell current measurement, for converting the at least one additional Cottrell current reading into an additional analyte concentration using a calibration slope and an intercept specific for the at least one additional Cottrell current measurement, and for comparing the first analyte concentration measurement with the at least one additional concentration measurement to confirm that they are within a prescribed percentage of each other;

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2回目のOffice Actionにおいて審査官は補正クレーム1Walling引例とSzuminsky引例(またはWhite引例)によって自明であるとし拒絶した。出願人はクレームを補正することなく、いずれの引例にも対象物(グルコース)濃度を測定するためにコッテル電流を複数回測定し、その測定値を互いに比較し測定装置が正しく機能しているかを確認するという特徴が開示されていないと反論した。

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3回目のOffice Actionにおいて審査官はWalling引例とWhite引例によって自明であると拒絶を維持した。出願人はインタビューを実施した。出願人はWalling引例において複数の電流値を用いて濃度測定が正しく実施されたかを判断することを開示しているものであって、クレーム1では2つのコッテル電流を第1と第2の対象物濃度値に変換し、これら第1、第2の対象物濃度値を比較するものである。White引例には、2つのコッテル電流を測定し、それらの比率を比較することが開示されている。依って、本願クレーム1変換するという特徴と比較するという特徴がWalling引例とWhite引例には開示されていないと主張した。審査官は出願人の主張に同意しクレームを許可した。

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- Kuhn引例:US Patent No. 5,385,846

- Pollmann引例: US Patent No. 5,288,636

- Szuminsky引例: US Patent No. 5,108,564

- Walling引例:US Patent No. 5,508,171

- White引例: US Patent No. 5,243,516

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    LifeScanの測定装置(イ号):

OneTouch® Ultra®システム  家庭用の血中グルコース(血糖値)測定装置

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血液が付着したテストストリップが装置に挿入され5秒経過後に2回にわたり2つの電極間の電流が測定される。因みに一回目の測定は5秒+25ms、2回目の測定は5秒+340ms。測定後に2つの測定値の差(Current Difference Test)が許容範囲にあるかを判断する。Current Different Testをパスするとトータルの最終電流が計算される。当該最終電流をもとにストリップの矯正コードを考慮し単一のグルコース量が計算される。

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LifeScanの装置はコッテル電流を対象物濃度値に変換する、あるいは、対象物濃度値を比較するということは実施していない。依って文言上の侵害はない(当事者間で異議無し)。

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■ CAFCにおける争点に関して:

LifeScanのグルコース測定装置は上記069特許クレーム1の文言上侵害はないが、均等論侵害を適用し侵害と判断されるか。

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■ 地裁の判断

経過書類禁反言(クレーム補正に起因する禁反言と反論による禁反言)によってLifeScanの装置は出願人が補正によって放棄した権利範囲に属するとして均等侵害を否定した。審査経過中に少なくとも「対象物測定値を比較することが引例との差異として重要である」と出願人は何度も述べた。 依ってPharmaが主張するFesto判決の経過書類禁反言の例外(Festo最高裁判決のTangential Exception ★)の適用を否定した。結果として地裁はLifeScanの略式裁判を許可し、経過書類禁反言によって均等侵害を否定した。

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★:Tangential Exception: Festo Corp. v. Shoketsu Kinzoku Kogyo (US Sup Ct.: 2002)

“a rationale underlying the narrowing amendment bears no more than a tangential relation to the accused product”

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■ CAFCの判断

地裁判決を支持する。

経過書類禁反言は、[1]クレームの減縮補正(クレーム補正による禁反言)、あるいは、[2]反論によってクレームの権利範囲を放棄すること(反論よる禁反言)によって生じる。

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クレーム補正及び反論による経過書類禁反言によってPharmaが主張する形態(LifeScanの形態)は均等論を適用しても069特許のクレーム1を侵害しない。

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Pharmaが主張する均等物(即ち、LifeScanの形態):

[a] 異なる時間で電流を2度測定する;[b] 当該測定値を比較し、差が所定値以内であることを確認する;そして[c] 電流値をグルコース濃度に変換する

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199710月の発明者のクレーム補正によってクレーム1には複数の電流値を測定対象物濃度値に変換すること、および、対象物濃度値を比較するという特徴が追加された。従って、出願人は血中グルコース濃度検出システムという技術領域から複数の電流値を測定対象物濃度値に変換すること、および、対象物濃度値を比較するという特徴を備えていないものを放棄したと推定される。この推定はクレームの補正理由が被疑侵害物とTangential Relation(僅かに触れる程度の関連性)しかない場合には反駁可能である。本事案の場合には発明者は引例と識別するために「変換する」及び「比較する」という特徴をクレーム1に追加したということは経過書類から明らかである。地裁が判断したように1997年のクレーム補正に伴う反論は当該減縮補正理由が問題となる均等物とTangential Relation(僅かに触れる程度の関連性)を超えるものであると判断する。依って、地裁の判断(クレーム補正による禁反言により均等論の適用を禁止する)を支持する。

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さらに、経過書類より明らかなように出願人は2つのコッテル電流を測定すること、それらを対象物濃度値に変換すること、そして変換された濃度値を比較することが本願発明であると繰り返し主張した。この主張によって権利化されたのであって、当該主張は「変換」→「比較」という順序は引例と識別するための本願特許の重要な特徴であるということは明瞭且つ明白(clear and unambiguous)である。

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609特許の経過書類によって競合者は、クレーム1の補正によって、血中グルコース濃度検出システムという技術領域から複数の電流値を測定対象物濃度値に変換すること、および、対象物濃度値を比較するという特徴を備えていないものを出願人が放棄したと合理的に信じるであろう。依って、地裁の判断(反論による禁反言により均等論の適用を禁止する)を支持する。

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地裁判決を支持する。

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