Therasense判決、最高裁で見直しか?

Sony Entertainment America v. 1st Media LLC

 SONYによる裁量上訴(201334)の後、合衆国最高裁は法務局長

(Solicitor General)に意見を求めた(513)

Summarized by Tatsuo YABE

初稿 May 31, 2013

 

2012913日に1st Media v. Electronic Arts事件のCAFC判決がでた。同事件においてはElectronic Artsの発明者および代理人が対応欧州特許出願で引用された公知文献をIDSしなかった。しかし、CAFCは自身のTherasense判決(2011525日)で確立した不公正行為を成立するための構成要件(硬直的なルール)に鑑み、Electronic Arts側の発明者も代理人も欧州特許庁で引用された公知文献を「意図的に隠蔽した(made a deliberate decision not to disclose)」という事実を立証できていないとして地裁判決(不公正行為と判断し、権利行使不能とした)を破棄した。当該CAFC判決を不服とし、且つ、大法廷での審理が拒否されたのちに、被疑侵害者側がSONYを筆頭に合衆国最高裁に裁量上訴した(201334)。 合衆国最高裁は裁量上訴を受け、約2か月の後に、最高裁の総務長官(Solicitor General)に意見書を提出することを命じた(2013513日)。過去の特許関係の最高裁判決を参酌するにCAFC判決でブライトラインルールが出された場合その多くが否定されている。 今回最高裁が裁量上訴を認めるか否かはまだ確定はしていないが、昨今の最高裁の知財への係りの頻度にも鑑み、もちろん、総務長官に意見を求めるという事実を考慮にいれると今回で約2年前のTherasense判決(2011年大法廷判決)が見直される可能性が高くなったと言えよう。(筆者)

 

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本事件は以下のCAFC判決を不服とし、CAFCでの大法廷での審理を請求するも、それが拒否された後に、複数の被疑侵害社のうちのSONY Computer Entertainment Americaを筆頭に裁量上訴がなされた(201334)

 

1st Media v. Electronic Arts(Fed Cir, Sep. 13 2012)

 

許可可能通知発行後であって登録料納付前の期間(所謂第3ステージ)に対応欧州特許出願のSRY表示の引例が引用された。当該Y引例をIDSしなかった理由に対する発明者とその代理人の証言は信憑性に欠くところがあるが、Therasense判決による「騙す意図」は証明されていない。 即ち、発明者も代理人も(a)引例の存在を周知していた;(b)引例の関連度合(重要性)が高いことを周知していたかもしれない;(cUSPTOに知らせなかった。 しかし、上記(a)〜(c)の事実認定ではTherasenseで判示されたIC (Inequitable Conduct)の証明には不十分である。「騙す意図」を証明するには(A)引例の存在を周知していた;(B)その重要性を周知していた;(C)意図的にそれを開示しなかった。という3つの要件が証明されなければならない。本事件では特に(C)の証明が欠落している。

 

その後、最高裁は総務長官(合衆国最高裁において連邦政府の代理人として訴訟遂行にあたる人)に意見を求めた(2013513)。 

 

(以下、SONYによる裁量上訴の申請書の内容抜粋)

 

争点は「Therasense判決で判示された不公正行為認定に対する硬直的な規則を適用することによって地裁において裁判記録の全体を考慮に入れることを禁止し、且つ、出願人がPTOに負う誠実義務を欠いた場合に衡平法上の救済措置を講じることを禁止することになる、このように地裁における衡平法上の裁量措置の履行を限りなく限定してしまうのはKeystone Driller判決、Hazel-Atlas判決、及び、Precision Instrument判決に鑑みて間違っているのではないか?

 

特許出願人は規則1.56条の基にPTOに対して誠実義務を負う。 また、当該規則1.56で、出願人が知りうる重要情報をPTOに提示することを義務付けている。 依って、出願人が知っている重要情報をPTOに提出しなかった場合には規則1.56条に基づく当該誠実義務の不履行となる。 しかし、Therasense判決の特に以下(iii)にあるように、出願人側が意図的に重要情報を提出しないと判断したというレベルの証明がされない限りは不公正行為を立証できない。 即ち、出願人側の不注意(あるいは重過失)で重要情報を提出しなかったということを立証できても不公正行為を成立しない。

 

In no disclosure cases, the accused infringer must prove by clear and convincing evidence that (i) applicant knew of the reference, (ii) knew that it was material, and (iii) made a deliberate decision to withhold it”

 

然るに、規則1.56条に基づき弁護士の弁護過誤(malpractice)を問われることはあるにせよ、出願人の規則1.56条の誠実義務の不履行に対して地裁裁判官の衡平法に基づく裁量的な制裁措置(例:権利行使を不能にする)を取ることが実質的にできなくなる。また、Therasense判決の硬直的なルールを適用することで、出願人が情報を提出しなかったという事実に対して法的制裁措置が一切取れなくなる。

 

また、仮想例として、(1)出願人は規則1.56に基づく義務を知っていた;(2)引例(文献)を周知していた;(3)引例(文献)の重要性を周知していた;(4)その重要な情報(引例)をPTOに知らせなかった;(5)裁判において当該提出しなかった理由をうまく説明できなかった。 このような仮想例(実は本件事件)においても、当該重要な引例を提出しないという決断をしたことを示す直接証拠がない場合には、地裁は出願人の行為(提出しなかった行為)から提出しないという決断(deliberate decision)をしたということを推論することはできない。

 

さらに、出願人のIDSの仕方(IDS提出手順)は大別して3種ある、(1)重要性の判断をせずに周知している情報をすべて提出する;(2)出願人の合理的な判断で重要と思える情報のみを提出する;(3)重要性に関係なく一切提出しない。これら3つのうち(1)はPTOに多大な情報が流れ込み、審査官が関連性の高い審査に有益な情報を見つけるのが困難、また、(3)はPTOが出願人の知識を全く活用できないので、審査の品質が上がらない、しかしながら、(1)、(3)ではTherasense判決に鑑みて不公正行為を主張される可能性が殆どなくなる。 勿論(2)がPTOにとって最も望ましいが、この手順が最も出願人にとって危険(選択的に重要なもののみを提出するので、(1)或いは(3)よりも不公正行為の抗弁がされやすい)となる。依って、最高裁において本事件の裁量上訴が認められ、地裁における適切な裁量権の回復の重要さを審理することを望む。

 

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