米国特許改正法案(S515 & H.R. ■)  

上院と下院共に改正法案(略内容同一)が提出された2009年03月03日

Patent Reform Act of 2009 (S515 & H.R. )

 

By Tatsuo YABE

Revised on March 14, 2009

Summarized on March 05, 2009

 

本法案(上院と下院法案とも)は2007年4月18日に提出された特許法改正法案(S1145&HR1908)と内容的にはかなりの部分が類似しております。 即ち、先願主義(新規性の条文) ・ 103条自明性条文の簡略化 ・ 発明者以外による出願  ・ 先使用による抗弁を当事者にのみ適用(先の改正法案とは明白に異なる) ・ 付与後の異議申し立て(無効)手続き ・ 第3者による情報提供 ・ 損害賠償額の算定方法(先の法案より算定方法が詳細に規定された) ・ 故意侵害の規定及び制限 ・ 中間判決に対する控訴 ・ 裁判地 ・ 特許庁Directorの権限に対する規定等が盛り込まれています。 

 

以下、上院案(S)の概要を取りまとめております。(下院案Hは上院案Sと以下の項目に関して全く同一あるいは略同じ)

 

上院(S515)改正案概要:

 

条文       改訂内容   コメント:
35USC 102  新規性  

先発明主義から先願主義へ(但し1年間のグレースピリオド有り)

 

102条(a)項

(a)(1) 以下の要件に該当する場合にはクレームされた発明を特許することはできない(新規性の喪失)

 

(A) クレームされた発明が、有効出願日(*1a)の1年以上前(1年丁度は含まない)に特許されるか、刊行物に開示されているか、公知、あるいは、販売された場合;(⇒ 現行102条b項と類似)  或は、

 

(B) クレームされた発明が有効出願日(*1a)前の一年以内に特許されるか、刊行物に開示されているか、公知、あるいは、販売された場合で、発明者あるいは共同発明者の開示あるいは、それらより間接的に、あるいは、直接的に得たものを除く;

 

(a)(2) クレームされた発明が、その有効出願日(*1a)の前に、他の発明者を含む特許出願願書が有効に出願され、米国特許法151条に基づき発行された特許、あるいは、同法122条b項に基づく公開公報に開示されている場合; 

 

102条(b)項 (現行の103条自明性拒絶適用例外の規定)

(b)(1)       先の発明者による公開による例外規定

 ⇒ 上記(B)の先行技術がある場合であっても特許を得ようとする発明者あるいは共同発明者によって上記(a)(1)(B)で適応される日にちの前に特許主題が公開されていた場合は、当該先行技術は引例の地位を喪失する;

(b)(2)       冒認あるいは共通の譲受者による例外規定

   ⇒ 上記(a)(2)の先行技術がある場合であっても、それが(A)冒認である場合、または、(B) 有効出願日の前に同一人に所有されるか、同一人に譲渡する義務があった場合には同先行技術は引例の地位を喪失する;

(b)(3)       共同開発の合意に基づく例外規定

⇒ (A) 以下の場合には上記(2)でいうところの同一人に所有される、あるいは、同一人に譲渡する義務があったとみなす:

   (i) 有効出願日あるいはその前に共同開発の合意がなされ、該共同開発に基づき発明がなされた場合;

       (ii) クレームされた発明が共同開発の合意の範疇で実施された行為から派生したる場合;

       (iii) クレームされた発明を含む特許出願が共同開発の合意を示す場合あるいは、同出願が補正され共同開発の合意を示す場合

⇒(B) 共同開発の合意の意味:

(b)(4)       上記(a)(2)で規定する先行技術としての特許あるいは特許出願は以下の場合に、有効に出願された出願日とする――

   ⇒ (A) 特許あるいは特許出願が出願された日

   ⇒ (B) 特許あるいは特許出願が119条、365条(a),365条(b)の基に優先権を主張する場合、あるいは、120条、121条、さらには365(c)の基に優先権を主張する場合には、発明主題を開示したる最先の出願の出願日

 

 

注意:    

(*1a): 『有効出願日(1*a)』とは米国出願日或いは優先権主張日(日 ⇒ 米出願の場合)のどちらか早い方;  ⇒ 現行米国特許法102条b項では米国出願日を基準(優先権を主張する日ではない)。 という意味ではパリ条約に敬意を表す。

 

⇒ 自分の発明に関しては公開後、1年のグレースピリオドは保証される。 言い換えると、自己の発明を公開した後であっても公開後1年以内に米国出願をすれば良い。

 

⇒ インターフェランスの条文は削除(「Derivation:冒認」と言う条文に変更)  

 現行米国特許法のインターフェランス手続きのような当事者間での発明日の遡及勝負はなくなる。  

 

発明者自身の公開から1年間のグレースピリオドを維持するものの、それ以外は『有効出願日(*1a)』基準とする先願主義。

 

 

 

 

 

 

 

 

(a)(2) 先行技術が、米国特許出願公開公報(或は米国特許公報)の場合で、同米国公報が日本出願から優先権を主張している場合には日本出願日において引例の地位を得ることになる。 現行では米国出願日(日本出願より優先権を主張していても)でしか引例の地位を得ることはできない。

 

35USC 103 自明性  

A patent for a claimed invention may not be obtained though the claimed invention is not identically disclosed as set forth in section 102, if the differences between the claimed invention and the prior art are such that the claimed invention as a whole would have been obvious before the "effective filing date" of the claimed invention to a person having ordinary skill in the art to which the claimed invention pertains.  

 

Patentability shall not be negated by the manner in which the invention was made.

 

 

103条の(b)バイオ関係の項、適応例外規定の項などを削除し、現103条(a)項のみとなる。 但し、現行の発明日を基準とするのではなく、「有効出願日基準」で自明性を判断することになる。  

35USC 112 明細書・クレームの記載要件     実体的な変更なし  
35USC115 発明者の宣誓書 

(a) 発明者の名前と発明者の署名

(b) 発明者は以下の内容に対して宣誓しなければならない:

(1)       特許出願願書は宣誓人によって、あるいは、宣誓人の許可の下に作成された;

(2)       宣誓する者は特許出願でクレームされた発明の真の発明者あるいは真の共同発明者であると信じる;

(c)  特許庁長官の要請に基づく追加情報に関する項

(d) 但し、以下の場合には発明者による宣誓書の代わりに代替文書を提出することはできる:

A)発明者が死亡、法的能力を欠く場合、或は、誠実な努力をするも発明者にアクセスできない場合;

B) 発明者は発明を譲渡する義務を負っていながら宣誓書に署名することを拒んでいる場合 

(以下、略す)  

 

 

宣誓書からIDSの開示義務を周知しているという文言消えた。

35USC 118 発明者以外による出願   発明者以外(譲受人)による特許出願許容   先の法案S1145 & HR1908 (April. 18, 2007)と略同じ。

 

35USC 273  先使用  

 「先使用: “prior use”」を根拠に非侵害の抗弁

先使用の抗弁をビジネスモデル特許だけではなく、他の特許に対しても可能とする。  

 

 

先の法案S1145 & HR1908 (April. 18, 2007)に存在した先使用の抗弁に関する法案、削除された。  

35USC284 損害賠償 

■ 侵害に対する損害賠償額は妥当なロイヤルティ額を下回らないというのが基本;

■ 妥当なロイヤリティー額を算出する基本:

裁判所は妥当なロイヤリティーを算出するための要因を以下から特定しなければならない、そして裁判所或は陪審は当該特定された要因のみを考慮すること:

 

(A)マーケット全体での価値:

市場が侵害品(或はプロセス)を必要とする主たる理由が、特許の先行技術を超えて貢献する特定の部分であることが証明されれば、損害賠償額を侵害品(あるいはプロセス)の市場全体価値を基礎として判断してよい。

 

(B) 市場で確立されたライセンスを基に設定されたロイヤリティ額

クレームされた発明主題が関連市場において非侵害の代替品と実質的に類似しており、非独占的ライセンスの主題であることを裁判所に証明できた場合には、侵害者の使用状態が同ラインセンスと実質同一範疇であると裁判所が認めた場合には、損害賠償額は当該ライセンスの条件を基礎として算出する;

 

(C) 先行技術を超越する貢献度と損害賠償との関係

上記(A)および(B)で要求される証明が十分にされていないと判断される場合に、裁判所は妥当なロイヤルティを算出するときには、侵害製品のうちで、問題となる特許が先行技術を超えて貢献する経済価値の部分のみに適用すること。 

クレームされた発明主題が公知技術の組合せの場合には、上記発明の貢献度とはそれら先行技術を組み合わせることによる相乗効果を奏する部分を含む。

 

 

先の法案S1145 & HR1908 (April. 18, 2007)に算出方法が追加された。

35USC 284 (e) 侵害に対する救済

故意侵害の定義 最高3倍額の賠償(懲罰規定)

 

        特許権者が明白、且つ、説得性のある証拠によって、侵害者の行為が、以下の行為に該当し、当該行為を客観的な無謀さ(重大な過失)を伴い実行したことを証明できた場合にのみ裁判所は故意侵害を認定することができる:

              * 特許権者から適切な警告書を受けた後、十分な調査を実行する機会があったにも拘らず侵害行為を継続したる場合;

       ⇒ 侵害者に対して客観的に妥当性をもって侵害裁判の提訴の可能性を知らしめた場合; および

       ⇒ 特許クレームと侵害品との関連性を示し、特定した場合

              * 特許が存在することを知りながら、特許された発明を意図的にコピーした場合; または

              * 裁判所で侵害と判示されたにも拘らず、同侵害行為と同様の行為を実行し、結果的に同特許を再度侵害した場合;

 

故意侵害の制限

以下の場合には裁判所は故意侵害を認定しない;

* 侵害者が、特許が無効又は権利行使不能の状態である、乃至は、問題となる行為が非侵害であるということを情報(弁護士の助言; 特許を回避する手段を実行した; 裁判所が誠実さを認めたる場合)に基づき誠実に信じていた期間

 

      侵害者が弁護士の助言を公表しないということは、故意侵害の判断要因ではない;

      故意侵害は、裁判所が問題となる特許の有効性、権利行使の有効性、および、侵害の事実を認定する前に判断されてはならない。 

      故意侵害の判断は裁判官が行う(陪審は関与しない)。

* 議会への報告要請:

PTO長官は本改正法の成立後2年以内に上院および下院の司法委員会に対し厳選された先進工業国(欧州共同体、日本、カナダ、オーストラリア)における先使用権の運用に関する報告をすること。(今回の法案で追加された:但し先般の法案にあった先使用の抗弁のセクションが本法案では削除されている)

      先発明者の侵害行為に対する抗弁 (Personal Defense)

先の発明者は当事者間において侵害の訴えに対して、自己の先発明を立証することで抗弁することができる。 しかし、この抗弁権(侵害に対する抗弁権)は譲渡できない。  

 

 

 

連邦議会への報告要請の項目およびPersonal Defenseの項目を除いて、先の法案S1145 & HR1908 (April. 18, 2007)と略同じ。

35USC301(a)(1) 情報提供  

何人も、何時でも、PTOに以下の情報を書面で提出可能:

* (a)(1) 特許されたクレームの何れかの特許性に影響を及ぼすと思える米国特許出願日1年以上前の刊行物、あるいは、米国における公用、又は、販売に関わる証拠; あるいは、

* (a)(2) 特許権者がPTO或は連邦裁判所に提出した書面で特許クレームに関わるもの;

 

 

先の法案S1145 & HR1908 (April. 18, 2007)と略同じ。

35USC302 再審査 上記301(a)(1)または(a)(3)で規定する刊行物或は公用、或は、販売の証拠でもって再審査を提起することができる。    

先の法案S1145 & HR1908 (April. 18, 2007)と略同じ。

S(上院案)には301(a)(3)が記載されていない。 H(下院案)にはある。

 

35USC321 to 332 特許付与後の無効申請手続き(異議申し立て)  

321: Petition for post-grant review

特許権者以外の者は特許されたクレームのいずれかを無効にするための付与後特許無効手続きを申請することができる。

322: Timing and bases of petition

― 付与後の無効手続きは特許が付与されてから1年以内に申請されている; 或は、

― 特許権者が同無効手続きに同意している場合

323: Requirements of petition

無効手続きは以下を満たす場合に可能となる:

― 無効請求手続き費用;

― 無効請求人の特定;

― 無効を請求する特許とクレームの特定と無効の根拠となる情報の提示;

― 上記情報を特許権者に提供すること;

324: Prohibited filings

同一人が2度にわたり無効手続きを申請することはできない。 ベストモード違反を理由に無効を申請することはできない。

325: Submission of additional information;

長官は無効手続きを実行するに足る情報が提示されない場合には同手続きの開始を認めない。

326: Conduct of post-grant review proceedings

長官は本手続きに関わる証拠提出など、各種規則を設定すること;

特別の理由のない場合には、無効手続きは申請されてから1年以内に最終結論を出すこと;

327: Patent Owner response

特許権者は長官が設定する期限内に応答書を提出できる。

328: Proof and evidentially standard

無効手続きにおいて、282条で規定する特許の有効性の推定は働かない。 無効申請をする者は証拠の優越性の立証責任を負う。

329: Amendment of the Patent

特許権者は以下の補正をする機会が1回与えられる:

− クレームをキャンセルする補正;

− 無効の対象となるクレームに対する代替クレーム(補正クレーム);

− 図面の補正あるいは明細書の補正(クレーム以外)

上記クレーム補正においてクレームの権利範囲を拡大することは許されない。

330: Decision of the Board

申請人が無効手続きを放棄しない限りは、PTAB (Patent Trial and Appeal Board)は無効手続きの対象となるクレームの有効性に対する最終結論を出す。

331: Effect of decision

PTABが最終結論を出し、控訴期間が満了し、あるいは、控訴手続きが終了した場合には長官は無効となったクレームをキャンセルし、追加された特許性のある新規のクレームを盛り込んで証明書を発行する;

追加された特許性を有する新規なクレームは252条に基づく再発行手続きを経たクレームと同等の効果を有する;

333: Relationship to other proceedings

PTO長官は、無効手続きと他の手続き、再発行出願手続き、再審査手続き、インターフェランス手続き(本法案の施行前)、冒認手続き、或は、他の無効手続きの進行との関係(保留、併合、移送、中止)をどうするかを決定する権限を有する;

本無効手続きが開始されたとしても、特許権者の権利行使を制限することにはならない。

334: Effect of decisions rendered in civil action on post-grant review proceedings

民事訴訟においてクレームの無効を証明できなかった当事者、或は、その利害関係者は、同民事訴訟において提起した無効理論と同じ理由でもって無効手続きを請求することはできない。

335: 330の無効手続きの最終判断の影響

330条に基づく最終決定において、特許権者にとって好適な判断がされた場合(いずれかのクレームの特許性が認められた)には、当該最終決定されたクレームに対して、無効手続きの請求人は(1)再審査;(2)冒認手続き;(3)付与後の無効手続き;(4)民事訴訟で無効性を争う;又は、(5)無効を主張し、侵害から逃れることはできない。

336: アピール

PTABの最終判断に対してCAFCにアピール(141条から144条に基づく)可能である。  

 

 

先の法案S1145 & HR1908 (April. 18, 2007)と略同じ。

35UCS 6  PTAB

PTAB (Patent Trial and Appeal Board)

特許庁にPatent Trial and Appeal Board(特許トライアル&審判部)を設ける。 同特許トライアル審判部は審査官の審査結果、再審査、冒認手続き、および、付与後無効手続きの決定を審理する。

 

先の法案S1145 & HR1908 (April. 18, 2007)と略同じ。
35USC122(e) 3者による情報提供 

3者による情報提供は、以下の(A)と(B)のいづれか早いほうの日の前であれば可能である:

A) 特許査定の郵送日; 又は、

B) (i) 122条に基づき特許出願が公開されて6ヶ月以内; 或は (ii) 132条に基づく最初の拒絶がされた日の何れか遅いほう  

 

先の法案S1145 & HR1908 (April. 18, 2007)と略同じ。
28USC1292(c)(3) added

中間判決に対する控訴

Interlocutory Appeals  

 

以下のサブセクション“28USC1292(c)(3)”を追加:

 

28USC1292(c)(3)

地裁において中間判決、或は、クレーム構成が決定(マークマン判決)された場合であって、同判決・決定に不服を唱える者は10日以内に(連邦巡回控訴裁判所に)控訴することができる; しかし、当該控訴を認めるか否かの判断は地裁の裁量事項であり、さらに、控訴を認めたとしても地裁での審理を中断するか否かは地裁の裁量事項である。  

 

 
28USC1400 裁判地と裁判管轄地

侵害裁判における裁判地は以下とする:

― 被告が主として業を行う場所、或は、被告会社の設立地であるか、また外国の会社が被告の場合には、米国の子会社が主として業を為す場所、或は、同子会社の設立地のいづれかである;

― 侵害行為が起こった場所で侵害者が通常業を行う、或は、管理する場所である。

  (以下略す)  

 

 
25USC3(a)   規則を改定する権限の付与 法改正に対応する施行規則の改訂をする権限を特許庁のディレクターに認める。   先の法案S1145 & HR1908 (April. 18, 2007)と同じ。
施行  施行日 本法案が可決されて12ヵ月後に施行する。 先の法案S1145 & HR1908 (April. 18, 2007)と同じ。
       

詳細は以下URLを参照ください。

http://www.patentlyo.com/patentreformactof2009.pdf  

   http://www.patentlyo.com/housepatentbill.pdf