Festo事件−米国最高裁での口頭弁論概要まとめ

事件番号:00−1543

 

By Tatsuo YABE

On February 21, 2002

 

日時: 2002年01月08日 (火曜日) 午前10時16分〜午前11時17分

場所: ワシントンDC最高裁判所

出席者:

最高裁裁判官: William Rehnquist; Antonin Scalia; Anthony Kennedy; Sandra Day Oconnor; Ruth Bader Ginsburg; John Paul Stevens;

Festoの代理人: Bork弁護士 (上告人)

焼結金属工業の代理人: Oblon事務所の Neustadt特許弁護士

米国政府を代表し、法務省Wallace弁護士 (CAFC大法廷判決の破棄、差戻しを支持)

 

###############著者注##################

今回の口答弁論に至るまでに裁判助言として40もの意見書が本件に利害関係を伴う米国の組織団体より提出された模様です。 今回の口答弁論においてFesto側を代理しBork弁護士、SMCを代理するNeustadt特許弁護士、米国政府を代表し、Wallace弁護士が1月8日の朝10時16分より合計1時間の時間でもって実施されました。 

争点はFesto大法廷判決とW-J最高裁判決との整合性であります。 SMC側は両者は矛盾しているものではなく整合性があると主張しておりますが、Neustadt弁護士に投げかけられる最高裁裁判官の質問から推測すると、最高裁の多数の裁判官はその整合性に疑問をもっているようです。 特に、最後の質問でFesto判決で言う「減縮補正がある場合に、その補正が特許性に関する補正である場合には、その補正部には均等論は適用されない」の意味するところと、「減縮補正には全て均等論が適用されない」という意味するところに違いはあるのかという質問に対してNeustadt特許弁護士は明快な解答ができませんでした。 Neustadt特許弁護士は、“特許性に関与しないクレームの減縮補正”の例を示すことができませんでいた。 これ即ち、最高裁の危惧するのはFesto判決の実質意味するところは「特許性に関する減縮補正」と言うものの、「減縮補正があればそこには均等論が適用されない」と判決するのと同じではないかという点です。 もしそうであるとするならば、当然W-J最高裁判決と整合性がとれなくなってきます。

W-J最高裁判決では少なくとも、クレーム補正が特許性に関するものであるかいなか、言換えると、特許を取得する目的で、出願人がクレーム補正時に所定権利範囲を放棄する意図があったか否か(出願人は少なくともその補正が特許性に関するものではなく、実施したことを証明する機会が与えられる)が検討されます。

Festoを代理するBork弁護士が最後に述べた財産権の侵害の法理(Festo大法廷の判決を破棄しない場合には、120万件の有効期限を持つ米国特許の保有者の財産の遡及的に侵害することになる)に対して最高裁判所は何らかの指針を示すことになるでしょう。

上記のように、口頭弁論から判断するとFesto大法廷判決が、そのまま支持される確率(上告が棄却)は低いと予想されます。 かといって、従来の柔軟な禁止の法理 (flexible bar)にそのまま戻るということはなく、均等論の適用の規準は“flexible bar” と “complete bar”の間で適切なガイドラインを示し、Festo判決での「均等論の適用可能性」を緩和するような判決がされると予想されます。

尚、最高裁裁判官の質問から推測すると特許性に関わる補正が112条の要求事項を含むということをW-J判決を下した時点で同裁判官が認識していなかった(或いはその重要性を認識していなかった)ことが理解されます。 今回、Neustadt特許弁護士は112条の要求事項が特許性にとって重要な要件であるということに関しては明瞭に説明しておりますのでこの点を最高裁が覆すことはないと考えます。

現時点での予想としましては本年6月までには最高裁の判決がくだされると思います。

以下、各弁護士の弁論の要点をとりまとめておりますので御参照ください。

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Bork弁護士の弁論の概要:

※ W-J最高裁判決で決まった規準とFesto(大法廷の判決)の規準は抜本的に異なる。

※ W-J最高裁判決では経過書類禁反言は特許性のために出願人が明瞭に放棄した主題に適用されるとした。 W-J判決とは異なり、Festo判決では理由の如何に拘わらず減縮補正があればそこに禁反言が生じる

※ W-J判決では禁反言を適用するか否かは補正の理由によると判事している。しかしFesto判決では、それを否定し、補正の理由如何に拘わらずそれが減縮補正となれば禁反言を適用するとした。

※ Festo判決では、特許性に関わる理由のみではなく特許を取得するための書式的事項に関しても禁反言適用の対象となる。 しかし特許法においては特許性とそれ以外の書式的事項に明瞭な違いがある。 当該書式的事項に相当するのは111条或いは112条で規定されている要求事項、即ち、方式に関する事項である。

※ 均等論の適用に対する(見極め)テストが機能しないことが問題であれば、均等論を廃止することである。 しかしそうすると補正があったか否かは問題ではなくなる。しかし均等論を廃止するのであれば、遡及効果を廃し、今後に効果が発生するように特許庁に規則を作成させるべきである。

発明者が裁判所で裁判官或いは陪審員に対して補正が減縮補正であるか否かを説明するのは、被疑侵害物が実質的に同じであるか否かを判断するのと同じくらい不確かなことである。 このようにFesto判決が決定した規準は不確実さを是正するものにはならない

※ 今後取得される特許は、審査中に補正を実施したならば以前と同じような権利範囲を享受することができなくなる。 従って、審査官が補正を要求した場合には、出願人はそれを拒否するか又はアピール(審判請求を)することができるが、アピールする場合には約2年の出願審査にかかる期間に、さらに4年の期間を追加することになる。 従って、6年もの重要な特許有効期間を喪失することになる。或いは特許を出願する代わりにトレードシークレットの方に走るか、或いは、出願時に補正を必要としないように最初から非常に狭いクレーム、即ち、発明物それ自体をも保護しないような狭いクレームを伴い出願することになるかもしれない。 現にPfizer社などは権利で保護できない製品を1億ドル(130億円)以上の費用を投資し、商品化することはなくなるであろうと述べている。 このように発明の生成過程に対して多大なダメージを与えることになる。

より重大な問題は現在120万件の米国特許の所有者である。 なぜならこれらの人々は事前に何の通告も受けなかったからである。 彼らが、特許を取得するときには自由に補正が実施されたであろう。 しかし、これら補正された多くの特許が実質的に無意味なものになるかもしれない。

※ 模倣者が文言上の侵害を回避したいときには補正された構成要素を微妙に変更することによって可能となる。 また、Festo社は1980年代にCAFCが均等論適用に対する規準を変えることになるとは予測していなかった。

※ 過去150年間にもわたり均等論の考え方は存在しているが、最高裁判決で今回のFesto判決に相当するような判決は存在しない。 最高裁判決において均等論の適用を完全に禁止したものはない。

※ Festo判決に基づくと、過去の知識しかなかった者に、現在生じたことに責任を負わせることになる。

※ もしFesto判決の規準が今後も継続的に他の特許権者に適用されるのであれば憲法で保証されている財産権の侵害になると解釈されるであろう。 従って、本裁判所においてこの過激な新しい規則を遡及的に適用することを禁止すること及び議会或いは特許庁において規則が制定されることを要求することが重要である。

 

米国政府を代表して(法廷助言者:裁判所の友) Wallace弁護士による弁論概要

※ 最高裁質問: 政府はW-J裁判中にブリーフ(陳述書)を提出したときと意見を変えたとBork弁護士は主張しているが正しいか? ⇒ Wallace弁護士: そうは思わない。 先行技術を回避するために実施された補正と特許を確証するために実施される補正は、異なる問題を提起すると言えよう。 先行技術を回避するための補正は通常はほとんどの場合にはおいて減縮補正である。 Festo判決においてCAFCは減縮補正と称する意味は実際には特許主題を放棄することを言及していると理解している。 しかし他の目的において実施された補正に関しては慎重に検討されなければならない、何故ならそのような補正は多くの場合において減縮補正ではないからである。 実際に、Festo判決後のCAFCの判決において、補正が減縮補正ではないので、均等論適用が禁止にはならないと判事したものがある。

※ Festo大法廷判決は「柔軟な禁止規則」を適用すると経過書類において何が放棄されて、何が放棄されていないかを適切に認識することができないという点で正しいと考える。 米国電気電子工学協会(IEEE)は、W-JにおいてpH 9に限定したとしてもpH 10をクレームできたであろうことを証明できれば、元々pH 10でクレームしていたのと同様に取り扱うべきであると主張している。 我々は経過書類による推論はここまで曖昧ではないと考える。 しかしながら、Festo大法廷は、一般人への通知の観点から、均等論適用の「完全禁止規則」を全てのクレームに適用することが必要であるという点で行き過ぎであると考えるので、特許権者が不公平と考える場合に、立証責任とさらなる権利保護の推定がされることを推奨した

 

SMC代理人Oblon事務所Neustadt弁護士の弁論の概要:

※ 2000年度にCAFCで審理された合計31事件のうち27件は文言上の侵害に関するものであり、均等論は関与しなかった。

※ 最高裁の質問: 全く同じクレームが存在していたとしても、クレーム補正が全くされないクレームと補正されてできたクレームとでは均等論の適用に関して同じ規準で実行されない。 これをどのように解釈するべきか? ⇒ Neustadt: クレームが補正されて出来た文言はそのままで同じ文言を有するものとは根本的に異なる。 補正された文言はそれ自体で解釈されるべきではない。 補正されたクレームの文言は経過書類を参酌し、それに基づいて解釈されるべきである。 特許弁護士が避けたいクレームの補正が実施されたときには、Festo判決は、この補正は減縮補正であり、一般人はこの補正を信頼する権利がある。 従って、このような補正は非常に重要な補正となるのである。

※ 最高裁側質問: Festo判決は先行技術を回避するための補正に限定されることはないとした。 即ち、W-J判決を超越していると言えないか? ⇒ Neustadt: それはW-J判決で本最高裁が言及した特許性に従ったまでだ。 112条で規定されている「実施可能要件」も重要な特許性に関する要件である。 実際問題として「実施可能要件」を満たしていない特許から一般人が得られるものはない。 このように「実施可能要件」は112条で規定されているように、112条は単に方式問題ではない。1800年代の最高裁の判例でも実行不能とする拒絶に対して経過書類禁反言を適用したものがある。従って、重要な要件は減縮されたかどうかである。W-J判決においても補正理由が明瞭でない場合には、その補正は特許性に関係あると推定されるとし、その推定に反論(を撤回)できないときには、均等論の適用は完全に禁止となる

※ 最高裁側質問:何故それだけで不十分なのか? ⇒ Neustadt: 以前にフレキシブルバー「柔軟な禁止」という規則があった。 この規則の基には、出願人が接着剤から糊に減縮補正しても、訴訟において接着剤を使用している者を相手に「私の“ニカワ”は均等論の適用のもとに“接着剤”と同じである」と主張するようなものである。 Festo判決ではそれはできないと判事した。 以前のCAFCの規則では、“接着剤”から“ニカワ”に減縮補正しても後に“接着剤”と“ニカワ”の間のどこかで止まることができた。 これを容認すると一般人に対して、クレームが何を包括するのかを示さないことになる。 “接着剤”と“ニカワ”の間で発明をしようとする者は、その間で、一体何を実施することが出来るのかを知る必要がある。そこで今回のFesto判決はこのような発明者に対してクレームは“ニカワ”を意味しているので“ニカワ”を使わない限りは心配ないと指針を与えることができる。

※ CAFCはFesto判決後、Festo判決を適用しており、それは判決を簡略化している。 より重要なことは現在では特許弁護士は顧客に何が出来て何が出来ないかを明瞭にアドバイスすることができる。 しかし「柔軟な禁止の規則」のもとにはそのようなアドバイスをすることはできない。 特許が発行されると一般人はそれを閲覧することが出来る。 当該特許は何ができないかを規定するが、それより重要なことは何ができるかを知らせることである。これによって技術革新をもたらすことになる。 技術の範囲が不明瞭であれば、誰もその不明瞭な領域において技術革新を目指すことはないであろう、何故なら、もしそれが成功したとしても、均等論の適用のもとに侵害訴訟を提起されるかもしれないからである

※ 最高裁側質問: 特許性に関係ないの減縮補正はありうるか? 言い換えると、特許性に関する減縮補正とは結局は全ての減縮補正のことか? → Neustadt: 重大な減縮補正を実施しながら特許性に関係のない補正は非常に少ないかもしれないが存在すると考える。

※ 最高裁側質問: 何故特許性に関する減縮補正と言うのか? 何故、単純に減縮補正の全てと言わないのか減縮補正の全てと特許性に関わる減縮補正とは同意語のようではない。 →Neustadt: W-J判決では、補正の主題は具体的には言及されなかったと思う。 但し、先行技術に対する減縮補正を認識した。(Neustadt弁護士の発言は質問に対する直接的な回答にはなっていなかった)

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