最高裁判決

United States v Arthrex Inc.

2021621

URL LINK

https://www.supremecourt.gov/opinions/20pdf/19-1434_ancf.pdf

IPR手続きにおけるAPJは合衆国憲法2章の「任命条項」に鑑み違憲

Majority OPINION by Chief Justice Roberts

 (joined by Justices Alito, Gorsuch, Kavanaugh, Barrett)

Summarized by Tatsuo YABE 2021-06-26

|

IPR手続きにおけるAPJ(行政特許判事)の権限は憲法第2章の「任命条項」に鑑み合憲であるか?

本事案は米国特許庁でのIPRを担当する行政府の特許判事(Administrative Patent Judges: APJ)に付与されている権限は合衆国憲法第222の「任命条項」に鑑み合憲か否かが争点となった。即ち、APJPTAB(審判部)のIPR手続きにおいて成立した特許のクレームの有効性に対して行政庁としての最終決定を出すことができる。IPR手続きにおいてAPJの最終決定はUSPTOの長官によってレビュされるということはない。従って、そのような権限を持つためにはAPJは「principal officer」という行政府のStatus(即ち、大統領による任命)を得ていなければならない。

|

“Principal officer (主席職員)””Inferior officer(下級職員)

しかし行政府の「principal officer」は合衆国憲法第222項(任命条項)に規定されているように合衆国大統領に任命され上院議員によって承認されなければならない。第222項の基づき任命されていないofficerは「inferior officer」と呼称される。その地位にあるinferior officerは当該任命条項で任命されたofficer(principal officer)によって助言及び指導を受けなければならない。

|

最高裁の判断(IPR手続きにおけるAPJは違憲)と対処法:

自身の特許クレームを無効とされたArthrexAPJの違憲を主張し、IPR手続きを新たなAPJのパネル(3名のAPJ)による再審理(IPR)を求めたが最高裁はそれを認めなかった。APJの権限を違憲と判断した最高裁は2011年に立法されたIPR手続きの無効を言い渡すのではなく現実的な解決策を提示した。即ち、PTOの長官がAPJの最終判断をレビュできるように権限を与えること。

|

今後はどうなる?

-      PTOの長官はIPR手続きにおけるAPJの最終判断をレビュできるようになる;

-      但し、PTOの長官がIPR手続きにおけるAPJの最終判断をどのようにレビュするのか、あるいは、PTO長官がIPR手続きの全案件をレビュできるわけではないので、どのようにその権限を行使できるようにPTABの組織を改革するのかに関しては現段階では全く不明;PTOはレビュの仕方・手続きに関するガイダンスが発行されるであろう;

-      本判決は既に確定判決(或いはIPRで最終決定で確定された事案)には影響はない。しかし現時点でIPR手続き中の事案或いはIPR後にCAFCで審理中に事案にどのように影響するのかは不明;(以上筆者)

|  

 暫定的手続(Interim Procedure)の内容2021811日現在

|

n  PTO長官によるレビュは、PTABの最終判断を不服とする当事者による申請、または長官の自発的なレビュ(sua sponte Director Review)のいずれかによって行われる

n  [*] PTABinternal management review teamによってPTABの最終判断がレビュされ、長官にレビュの必要性を通知する場合もある(極々稀)。

n  PTABの最終判断(審決)の日より30日以内15頁以内の意見書を付して申請

n  申請費用は無料

n  申請書をPTABのアドバイサリ委員会(メンバーを構成中)で検討し、長官によるレビュのメリットがあるか否かを判断(事実認定、法の適用、規則、手続の観点、PTABの判断が割れた場合の理由等、多岐にわたる要因で判断)。メリットがあると判断された場合に長官に助言

     今後パブコメを募集し、詳細なレビュ手続・体制を整えていく予定(要Watch

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

■ 事件の背景:

|

-      特許権者:Arthrex

-      問題となった特許:米国特許第9,179,907

-      被疑侵害者(IPR申請人):Smith & Nephew (S&N)

|

ArthrexSmithNephew(以下S&N社)を相手に自身が保有するUSP9,179,907 を侵害していると訴えた。S&N社はIPR手続きを申請し同特許のクレームの無効を主張した。

|

    PTAB:

PTABIPR手続きで、3名のAPJ(行政府特許判事)Arthrexの特許クレームは新規性欠如により無効であるという最終決定を下した。

|

Arthrexは、IPR手続きのAPJによる最終決定はUSPTOによってレビュされる仕組みになっていないのでAPJには「principal officer」の権限が付与されていると理解される。しかしAPJの地位はUSPTOの長官との協議を経て商務庁長官が任命しており、合衆国憲法第222項の任命条項(大統領による任命)に基づくものではない。然るにAPJの任命自体が違憲であると主張しCAFCに控訴した。

|

    CAFC: 20191031

CAFCArthrexの主張に同意した。即ち、APJは「principal officer」であるのに拘わらず大統領に任命されていないので憲法第2章の任命条項に違反すると判断した。CAFCは、この違憲状態を解消するにはAPJの連邦法第5章にある行政庁職員の身分保障を解き(即ち、いつでも解雇される身分となる)「inferior officer」にすることであると述べた。

|

さらに本事件のPTABの最終決定を取り消し、身分保障を解除された新たな3名のAPJのパネルで審理をするようにPTABに破棄差し戻しと判断した。

|

3通の裁判所の助言者による陳述書(amicus curie briefs)により最高裁が裁量上告を受理するに至った。

|

■ 最高裁判決の概要(多数意見のみ):2021621

|

最高裁における争点:

PTABAPJに付与された権限は合衆国憲法第2章(任命条項)に鑑み合憲か否か?

|

最高裁判決における3つの判断事項:

3つの事項に対して審理された。第1と第2APJの合憲性に関し、第3は違憲性を解消するための対処法である。第1と第2に関しては最高裁裁判長のRoberts判事、Alito判事、 Gorsuch判事、Kavanaugh判事、Barret判事の5名で多数意見となった。但し、第3に関してはGorsuch判事が抜けて4名の意見となった。

|

1と第2:合憲性に関して

IPR手続きにおいてAPJに与えられた権限(PTOの長官によるチェックを受けることなくIPR手続きの最終決定を下す。)は商務庁で任命された「inferior officer」としての権限と矛盾している。

|

合衆国憲法第2章の「任命条項」には、唯一大統領が、上院の承認を伴い、「principal officer」を任命できると規定されている。尚、同任命条項によると、「inferior officer」を任命する権限は省庁の上官に与えられている。

|

Edmond v United States事件(1997年)において、最高裁は「inferior officer」は憲法第2章(大統領)により任命されたofficerによって所定レベルの指示及び助言を受けなければならないと述べた。APJには上長にあたるofficerPTOの長官)による指示及び助言がなされていない。USPTOの長官には業務遂行上の管理権限と義務があるとはいえAPJの審決に対して一切のレビュがなされていない。唯一米国特許法6(c)項にPTABという組織による再ヒアリングが可能と規定されているのみだ。即ち、PTOの長官はAPJの審決(最終決定)を委ねており、APJの判断に対する一切の責任を免れることになっている。APJの判断が行政庁の最終判断として既にUSPTOで権利化された特許に対して有効・無効を決める。

|

USPTO及びNS社(IPR申請人)はPTOの長官にはAPJの選別に対し多くの権限が与えられていることを主張している。仮に長官が今後PTABでのIPR審理にAPJを担当させないとしても既にIPR手続きを経た結果に対して一切の影響力を行使できない。或いは、省庁としてもAPJを解任する権限が無きゆえにAPJを省庁の管理下におくことはできない。APJは行政庁の権力を行使しているので大統領が最終的にはAPJの仕事に対する責任を負わねばならない。APJの最終決定をCAFCに控訴できるがそれは本来あるべき省庁における指揮監督にはならない。

|

連邦議会は2011年の米国特許改正法を成立させることでAPJに対してその最終決定がチェックされること及び解任されるということを封じてしまった。

|

3:対処法

米国特許法第6(c)項はPTABのみが再ヒアリングを認められると規定している。一般的には、条文において違憲と解釈される部分がある場合には当該問題箇所のみを無視し他の箇所はそのままにするというように対応する。Ayotte v. Planed Parenthood of Northern New Eng., (2006) 然るに特許法第6(c)項はPTOの長官がPTABの最終決定のレビュを不能とする箇所のみを除外し解釈する。PTOの長官にAPJの最終判断をレビュする権限を与えること、そして自身でPTABとしての決定(審決)を出せるようにすること。

|

追記事項:

本判決はPTABAPJが審理する審判手続き(出願審査)に適用されるものではない。あくまでPTABにおけるIPR手続きのAPJの最終決定に対するものである。

|

さらに本判決は、PTOの長官にPTABの最終決定の全てをレビュすることを要求するものではない。

|

本事件において違憲とされるのはPTOの長官によるAPJの最終決定をレビュする権限が制限されている点であって、省庁によってAPJが任命されたという点ではない。然るに、Arthrexが要求、「新たな3名のAPJによるIPR手続きをする」は認められない。

|

破棄差し戻し (vacated and remanded)

|

反対意見、一部認容意見等は略す。

*****************************

References:

|

合衆国憲法第222項:

|

Article II, Section 2, Clause 2:

 

合衆国憲法第222

He shall have Power, by and with the Advice and Consent of the Senate, to make Treaties, provided two thirds of the Senators present concur; and he shall nominate, and by and with the Advice and Consent of the Senate, shall appoint Ambassadors, other public Ministers and Consuls, Judges of the supreme Court, and all other Officers of the United States, whose Appointments are not herein otherwise provided for, and which shall be established by Law: but the Congress may by Law vest the Appointment of such inferior Officers, as they think proper, in the President alone, in the Courts of Law, or in the Heads of Departments.

 

 

大統領は、上院の出席議員の 2/3の賛成の基に、上院の助言と承認を得て、条約を締結する権限を有する。大統領は、上院の助言と承認を得て、大使その他の外交使節および領事、最高裁判所の裁判官、ならびに、この憲法にその任命に関して特段の規定のない官吏であって、法律によって設置される他のすべての合衆国職員(principal officers)を指名しこれを任命する。但し連邦議会は適当と認める場合、法律によって下級職員(Inferior officers)の任命権を大統領のみに付与し、裁判所、或いは、各省庁の長官に付与することができる。

|

35 USC 6(c):米国特許法第6(c)

(c)3-Member Panels.—

Each appeal, derivation proceeding, post-grant review, and inter partes review shall be heard by at least 3 members of the Patent Trial and Appeal Board, who shall be designated by the Director. Only the Patent Trial and Appeal Board may grant rehearings.

|

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

(1) US Patent Related 

(2) Case Laws 

(3) Self-Study Course

(4) NY Bar Prep

(5) LINKS

Home