Grace Instrument Indus. v. Chandler Instruments

2023112

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クレーム解釈(内部証拠の優越性)
OPINION by Chen, joined by Cunningham and Stark; (Circuit Judges)

Summarized by Tatsuo YABE – 2023-01-31

本事案において粘性測定装置に関するクレームの”enlarged chamber”という構成要素の解釈の妥当性がメインの争点となった。地裁は内部証拠(明細書と経過書類)を考慮するもenlargedと言う用語は何に対して大きいのか(larger than what?)、その基準が当業者には合理的に理解できないとして不明瞭としクレームを無効と判断した。しかし控訴審(CAFC)では内部証拠によって当該構成要素は相対的な大きさを規定するものではなく発明が所望する目的を達成するための大きさ(容積)を備える空間であることが理解できるとし地裁判決を破棄差し戻した。

クレームの文言”enlarger chamber”に対する文言上のサポートは明細書に一か所(コラム1128行~34行)しかないが同じ参照符号4549で説明した箇所は多数あり、それらの箇所で述べていることには整合性がある。2015年のNautilus最高裁判決によってクレームの明瞭性のハードルは高くなった(権利範囲に関して当業者に合理的な確証を与える明瞭性)とはいえ、地裁のクレーム解釈は不当であったと考える。尚、本CAFC判決には訴訟においてクレームを不明瞭とし無効を主張する際の重要判決挙証責任がコンパクトに纏められている。

蛇足:本特許の発明者はテキサス州Grace社の社長であり、米国出願代理人の名称が特許証には記載されていない。とはいえ経過書類を見る限り発明者(社長)が米国出願代理人に補助してもらいながら自身で対応した形跡がある。さらに審査官が許可クレームを提示するなど色々とヘルプし権利化に導いた履歴がある。2007年~2008年頃の審査ではあるが米国特許庁の審査官(本件特許の審査官は現在勤続21年)は個人発明家には手を差し伸べる傾向があるようだ。(以上筆者)

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■ 特許権者:Grace Instrument Industries (Grace)
■ 被疑侵害者:Chandler Instruments (Chandler)
■ 関連特許:US Patent No. 7,412,877 (877特許)
米国出願日:20051024
特許日:2008819

■ 特許発明の概要:
本発明はオイル掘削機の掘削オイルの粘性を測定する装置に関する。掘削機においてオイルの粘性を調整することは非常に重要である。オイルの粘性が高すぎるとオイル孔から掘削ドリルの下方にオイルを送り出すのが困難となり、逆に粘性が低すぎると地中の掘削物(砂、石など)を地上にすくい上げるのが困難となる。この粘性を正確に測定するために初期にサンプルとなる流体を模擬作業状態での使用条件(圧力と温度)に設定し粘性を測定する。このサンプル流体に模擬使用条件下の圧力を与えるために別の流体(加圧流体)により圧力が掛けられる。この加圧流体がサンプル流体と混じるとサンプル流体の正確な粘性を測定するのが困難となるために、粘性測定領域に加圧流体とサンプル流体とが混合しないようにした。

877特許の図1と要部の拡大図:

 

877特許の発明者によると上図で示すchamber 45chamber 49(それぞれは小さな隙間の間19,25, 27に形成されている)によってサンプル流体を4549で満たした後に加圧流体をそのinlet 12から注ぎ込み使用条件の最大圧に達した時にでもサンプル流体はchamber 49の半分程度を満たす構造となる。従って、粘性測定領域(フィン82の下)は常にサンプル流体で満たされていることになる。

1. A pressurized device comprising:
(a) a pressure vessel within which is vertically disposed at least one top section filled with a pressurization fluid of a first density and at least one lower section filled with a test sample of a second density,
(b) an enlarged chamber with reduced openings positioned between the at least one top section and the at least one bottom section for communicating pressure with said top section and said lower section within said pressure vessel,
(c) whereby said pressurization fluid would not mix with said test sample because of the nature of their density difference.

2. The device of claim 1 wherein said pressurized device is a viscometer.

3. The device of claim 1 wherein said pressurized device is a consistometer.

4. Viscometer comprising:
(a) a pressure vessel within which at least one top section filled with a pressurization fluid of a first density,
(b) within said pressure vessel a rotor which is driven to rotate while contacting with a sample liquid of a second density to be measured,
(c) means for driving said rotor to rotate located in at least one bottom section,
(d) a bob within said rotor,
(e) an enlarged chamber with reduced openings positioned between the at least one top section and the at least one bottom section for communicating pressure located above said bob,
(f) whereby said pressurization fluid would not mix with said sample liquid because of the nature of their density difference.

■ 背景:
2020519日、特許権者GraceChandlerを相手に侵害訴訟をテキサス州南部地区裁判所に提起した。202171日、地裁はクレームを解釈し、問題となったクレーム1と4の構成要素”enlarged chamber(拡大された空間)を不明瞭であるとしクレーム14を無効と判断した。地裁によるとenlarged chamberは度合いを示す文言なので比較対象が必要であり877特許にはそれが開示されていないと述べた。

さらにクレーム4”means for driving said rotor…at least one bottom section”には112(f)項解釈が適用されるとし規定された機能を実現する手段として明細書に開示された構造に限定的に解釈されると判断した(被疑侵害者側の解釈を採用した)。

地裁は上記の基に877特許のクレーム1-2, 4-5, 7-9,11, 14, 15, 17”enlarged chamber”という構成要素が不明瞭で112(b)項の下に無効であり、クレーム4-5, 7-9, 11, 14-15, 17”means for driving said rotor…bottom section”の解釈に基づき非侵害であると判断した。

■ CAFCでの争点:

[A] クレーム1とクレーム4の構成要素”enlarged chamber”112(b)項の明瞭性の要件を満たすのか?
[B] クレーム4の”means for …one bottom section”に対する地裁のクレーム解釈は適切か?

■ CAFCの判断:
クレーム解釈は当業者が明細書を含む特許の全体を参酌し、クレームの構成要素をどのように解釈するかで決定される。Phillips v. AWH (Fed. Cir. en banc. 2005) 問題となるクレームの用語を解釈する上で明細書は最も重要なガイドとなる。Vitronics. V. Conceptronic (Fed. Cir. 1996) 裁判所は出願経過書類を考慮に入れなければならない、さらに裁判所は辞書の説明(定義)が特許における説明(定義)と矛盾しない限りにおいて辞書の説明(定義)を参照しても良い。

CAFCは地裁のクレーム解釈の根拠となった内部証拠に関しては一から見直し(de novo review)、地裁が外部証拠を基礎とした事実判断に関しては明白なエラー(clear error)がないかという基準でレビュする。Teva Pharma v. Sandoz (2015)

内部証拠とは特許のクレーム、明細書、及び、経過書類を含む。外部証拠は内部証拠を補助するものであり内部証拠(特許とその出願経過書類)以外の全てを含む。外部証拠は専門家及び発明者の証言、辞書及び専門書を含むPhillips。 クレームの用語がそれ自体で明瞭な場合には外部証拠を参照する必要はない。

明細書及び出願経過書類を参酌してもクレームの権利範囲が当業者に合理的な確証を持って伝わらない場合にはクレームは不明瞭として特許は無効になる。Nautilus v. Biosig Instruments (2014)

クレームの無効を主張する者は、クレーム解釈において要となる事実に関して明白且つ説得性のある基準で挙証しなければならない。Cox Communications v. Sprint Communications (Fed. Cir. 2016)

[A] Enlarged Chamber
Grace”enlarged chamber”とは2つの狭い開口部(ギャップ)との間に形成された空間であり、余剰なテストサンプル(当該技術分野において通常使用される流体)を保持することで、加圧流体によってサンプル流体の圧力を高めていくときに底のフィンの部位において当該サンプル流体と加圧流体とが混合しないようにするものであると主張した。地裁はGraceのクレーム解釈を認めずに、当該構成要素は何と比べて大きいのか(larger than what?) 当業者には不明なのでクレームの権利範囲(境界線)を当業者に客観的に示すことはできないと結論づけた。

地裁のクレーム解釈は以下の理由により不当である:

「1」明細書を参酌すると、加圧流体によってサンプル流体の圧を上げていき、サンプル流体の粘性を測定するときに、加圧流体が圧力容器の下部に侵入することを防止できるだけの拡大空間(enlarged chamber)であると当業者であれば理解できる。即ち、拡大空間(enlarged chamber)とは圧を掛けていくときにサンプル流体が拡大空間に残存することによって加圧流体が拡大空間下の粘性測定メーターの方に流入しない構造を意味する。従って、拡大空間(enlarged chamber)とは基準となるものよりも大きい(larger)ことを要求しておらず、特定の機能を達成するのに十分に大きい(large enough)という意味である。

「2」明細書のコラム11,2832行目で説明されているように、拡大空間(enlarged chamber)は空間45と空間49を含み、それらは圧を掛けていくときに下方にある粘性測定領域においてサンプル流体と加圧流体とが混合するのを防ぐ大きさであると記載されている。

「3」出願経過書類において、引用された先行技術文献 Blommaert USP4,633,708との違いを主張する際に、狭い開口部(複数)とその間にある拡大空間(enlarged chamber)という構成を備えることで、Blommaertに開示されたシールを備えなくても高圧のオイルがテストサンプル(サンプル流体)を汚染することはないと出願人が主張した。出願人はさらに本願の構成によって長年にわたり解決されなかった問題点(Blommaert引例のシールの摩擦に起因する粘性測定値のエラー)を解決したと述べた。これら主張によって審査官はBlommaertに基づく拒絶理由を取り下げ、出願を許可した。この出願経過からも当業者であればクレームの拡大空間(enlarged chamber)とは、粘性を測定する領域において、サンプル流体と加圧流体とが混ざり合うことを防ぐという意味であると理解できる。

「4」地裁が引用した判例 Liberty Ammunition v. United States (Fed. Cir. 2016)で問題となった”reduced area of contact”というクレーム用語の解釈においては比較の対象となる引例の弾薬が必要であって、それ以外に当業者に客観的な意味合い(権利範囲)を示す材料がなかった。本件においては寧ろBiosig v Nautilus (Fed. Cir. 2015)の判例が妥当する。即ち、電極間の間を”spaced relationship”という表現で規定しており、明細書に離間距離を寸法では示していなかったがユーザーの手の幅を超えない程度であり、近づきすぎない程度であることを当業者であれば理解できると判断した。こののように”spaced relationship”という用語の意味合いの解釈と同様に”enlarged chamber”がどの程度大きいのかはサンプル流体が”enlarged chamber”内に残る程度であることを当業者が理解できる。

上記のようにCAFCは地裁の拡大空間(enlarged chamber)の解釈を否定しているがクレーム1の構成要素(c)においてサンプル流体と加圧流体との密度の差によって(拡大空間によってとは記載されていない)流体同士が混合しないと規定している。さらに、地裁においてNautilus最高裁判決での基準、即ち、“合理的な確証を与える明瞭性”という判断をする主体(当業者)に関して審理されていない。依って、これらの点に関しては地裁で再度審理をするように差戻す。

[B] Means for … one bottom section
地裁のクレーム解釈を支持する(詳細は割愛する)。

■ 結論:

一部認容・一部破棄・差戻
Enlarged Chamberという構成要素を不明瞭とした地裁の判決を破棄する。但し、当該構成要素に関してさらなる審理が必要なので地裁に差戻す。クレーム4のMeans for … one bottom sectionの地裁のクレーム解釈を支持する。                                                                                                                

(1) US Patent Related 

(2) Case Laws 

(3) Self-Study Course

(4) NY Bar Prep

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