UCB v. Actavis Lab.

2023412

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Obviousness due to overlapping ranges

数値範囲が重複する場合の自明性判断 

OPINION by Moore (Chief judge), Chen and Stoll (Circuit Judges)

Summarized by Tatsuo YABE  2023-04-30

本事案はクレームの数値レンジと引例との数値レンジが重複する場合における新規性と自明性の判断に関わる判例である。そもそもの先行技術が自身の類似技術(パーキンソン病に対する皮膚に張り付けるタイプの治療薬)であって数値レンジが重なっておりこの場合の新規性の判断は少しややこしいのでCAFCは自明性判断に重きを置いて地裁判決を最終的には支持した。即ち、自明性判断の基礎となる「阻害要因」、「予期せぬ効果」、「客観的証拠(商業上の成功)」に関して地裁判決を詳細にレビュし地裁の判決(特許は自明で無効)を認容した。

権利者として非自明性を主張するにあたり本事案では数値レンジの重なり度合いが近接しており、且つ、同社による同じ目的でなされた技術発明(パーキンソン病に対する張り付け型治療薬)なのでクレームの数値レンジによる予期せぬ効果の挙証はやはり困難であって、残るは商業上の成功による挙証であるが何せUCB2021年まで類似特許(即ち、Blocking Patents)を世界中でも取得しており、当該技術分野で如何に商売が成功していたとしても結局は同業者が参入できなかったという事情に鑑み商売の成功を非自明性の客観的証拠(Graham-John Deere最高裁判決でいう客観的証拠「商業上の成功」)に結び付けられなかったことは致し方ないと言えよう。

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■ 特許権者:UCB
■ 被疑侵害者:Actavis Lab.
■ 関連特許:USP 10,130,589  (以下589特許)

出願日:2018131
特許日:20181120
2009年の仮出願より継続出願を経て権利化された。

■ 特許発明の概要:
当該特許はパーキンソン病の治療薬に使われるRotigotineという物質の安定性を保つ手法に関する。パーキンソン病とは震え、動作緩慢、姿勢保持障害など運動症状に悪影響を及ぼす疾患であり、特に、内服治療(飲み薬による治療)を困難にする。依って、本発明の技術分野においてはTTStransdermal therapeutic systems: パッチを皮膚に張り付け皮膚を通して薬が体内に浸透する)という手法によって投与する。尚、TTSにおいて皮膚から浸透する薬は結晶状態になると体内に吸収されないので非結晶性の状態を維持することが重要である。

■ 事件の背景:
初期のNeupro®
2007年にFDAの承認を得てUCBNeupro®という新薬を市場に出した。初期のNeupro®R(rotigotine)PVP(polyvinylpryrrolidone)を含有しており、PVPRotigotineの非結晶状態を比較的高い温度Tgにおいて維持していた。初期のNeupro®においてはRPVP92であった。

初期のNeuproUCB2件の特許(US6884434: US7413747:これらをMuller Patentsと称する)でカバーされていた。Muller PatentsにおいてR(Rotigotine)PVPの比を9:1.59:5と開示されていた。

改良されたNeupro®
2012年に改良版のNeupro®FDAで承認され市場に出た。改良版は初期のものと生物学的に同等のものであったのでFDAは有効性確認試験をすることなく承認した。RotigotinePVPの比率は94であった。改良版Neupro®は常温において2年間の非結晶状態を維持した。

2013年にActavisFDAANDA (Abbreviated New Drug Application)を申請し、ジェネリックの許可を求めた。

2014年にUCBMuller Patentsを基に訴訟を提起し地裁は434特許を基に差し止めを認めActavisANDA申請が434特許満了の2021年まで保留となった。

589特許:
UCB200912月の仮出願を優先権とする継続出願(2018)をし、当該出願が本訴訟における問題となる589特許が成立した。589特許においてRotigotinePVPの比率を9496にすることで室温(常温)においてRotigotineが結晶化するのを長期に防止できるという予期せぬ効果が生じると記載した。尚、589特許(そもそも2009年のProvisional Application)には以下Table3に示すようにR :PVPの比が9:19:11における時間経過に対するRotigotineの結晶状態がまとめられている:

■ 589特許の代表的なクレーム:
1. A method for stabilizing rotigotine, the method comprising providing a solid dispersion comprising polyvinylpyrrolidone and a non-crystalline form of rotigotine free base, wherein the weight ratio of rotigotine free base to polyvinylpyrrolidone is in a range from about 9:4 to about 9:6.

以下に市販されたNeupro®と関連特許の明細書の開示及びクレームの関係を示す:
2009年のProvisional Application: R : PVP = 9:1 9:6
Muller Patentsのクレーム: 9:15 9:5
589特許のクレーム: 9:4 9:6
市販品:初期のNeupro®9:2
市販品:改良されたNeupro®: 9:4

■ 地裁の判断:
589特許のクレームはMuller Patentsによって新規性欠如、及び、Muller Patents及び他の先行技術によって自明である。

■ CAFCの判断
地裁判決を支持する。

「A」新規性:
単一の先行技術によってクレームの全ての構成要素が開示されている場合にクレームは新規性が欠如していると判断される。Adasa Inc. v. Avery Dennison (Fed. Cir. 2022) 新規性の判断は事実審である。Atofina v. Great Lakes Chem (Fed. Cir. 2006) 地裁で認定された事実に対して控訴審においては明らかなエラーがあったか否かで判断する。United States v. U.S. Gypsum Co (1048)

クレームで数値のレンジ(幅)を規定している場合に「1」先行技術が当該レンジに属するポイントを開示しているのか(point within a range)、それとも「2」先行技術に開示されたレンジが重複するのか(overlapping range)で新規性を判断する対応が異なる。即ち、「1」の場合には先行技術によって新規性欠如となる。Ineos USA LLC v. Berry Plastics (Fed. Cir. 2015) しかし「2」の場合には、先行技術の開示によって事実審に関わる者がクレームされたレンジ(幅)と実質的な違いがないと結論づけられる場合にのみ新規性欠如となる。

地裁においてMuller PatentsTTSの例として9:4及び9:5を開示しており、589特許クレームで規定するレンジ内のポイント(point within a range)であると判断しているが、Muller Patentsには9 : 1.59:5のレンジが開示されているのであって当該レンジの上限9:5589特許で規定するレンジ(幅)内のポイントと解釈するのは正しくない。

しかし、次の章で589特許クレームの自明性の判断に鑑み新規性に関してはこれ以上審理をしない。

「B」自明性:
CAFCは地裁判断を支持する。

地裁において589特許クレームを以下の理由によって自明と判断した:
589特許クレームで規定するレンジはMuller Patentsに開示されたレンジと重複するので自明であるという主張に反論できていない;

自明性の判断は事実認定に基づく法律問題である。Merck& Co. v. Teva Pharms. USA (Fed. Cir. 2005) 依って、地裁の事実認定に関しては明白なエラーがあったか否かで判断し、法律判断に関してはde novo基準(地裁判断に一切重きを置かない)で判断する。

クレームされたレンジと先行技術で開示するレンジが重複する場合には自明性が推定される。Ormco Corp. v. Align Tech (Fed. Cir. 2006) この推定に反駁するには以下の3つの手法がある:「B1」先行技術がクレームされたレンジを否定している (teach-away from the claimed range)

「B2」クレームされたレンジによって予期せぬ効果が生じる(new and unexpected results)

「B3」客観的な証拠を含む他の証拠によって非自明性を証明する;

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「B1」先行技術がクレームされたレンジを否定している(Teach-Away from the Claimed Range)
UCBMuller PatentsForm II以前の技術なので589特許(即ちこっちの技術が革新的!)に対する先行技術にはなりえない、寧ろTang引例(US2009/0299304)がより関連性の高い先行技術であると主張したが地裁はそれを否定した。

専門家の証言にあるように、Form I及びForm IIもいずれもPVPRotigotineの非結晶状態を維持することが分かっており、水素がRotigotineの分子同士(2つの分子)に結合することによってRotigotineが結晶状態となる。従って、水素がRotigotineの2つの分子間に結合するのを防ぐことによってRotigotineの結晶化を阻止できる。Form IIの方がForm Iよりも安定性が高いがその差は多大なものではない。実に米国ではForm ITTSの在庫があるので現在も販売を意図的に継続している。パーキンソン病を専門とする医者の記事によってもForm Iを100名の患者に適用したところ結晶化による問題は生じていないと述べられている。

阻害要因(Teach away)とは、当業者が問題となる先行技術文献を読んだときに同開示内容に従うことを躊躇する、或いは、同開示内容が本願発明の道筋(ガイドする方向)から反れてしまうというような場合である。Galderma Lab’ys v. Tolmar (Fed. Cir. 2013) それとは逆に、先行技術文献が、クレームされた発明を批判、不評、或いは、当業者がさらに理解しようとすることを阻むのではなく、単に代替案(代替発明)の一般的な良さを述べているような場合には阻害要因には該当しない。In re Fulton (Fed. Cir. 2004)

UCBの主張する新たな先行技術文献 TangPVPの比率がより高い(9:18)場合が望ましいという好適実施形態を開示しているにすぎず、クレームのレンジを否定するものではない。

依って、地裁の判断を支持する。

「B2」クレームされたレンジによって予期せぬ効果が生じる(New and Unexpected Results)予期せぬ効果を挙証するにはクレームされた発明で得られる効果と最も関連性の高い先行技術で得られる効果との違いが発明時における当業者にとって予想を超えたものでなければならない。Bristol-Myers Squibb v. Teva Pharms (Fed. Cir. 2014) それが程度の差ではなく性質の異なる場合に説得性が増す、即ち、クレームのレンジが予想される結果ではなく、公知ではない新規な性質を生成するなどの場合に説得性が増す。

地裁は先行技術と589特許クレームで生じる効果の差は同種のもので、同程度であると判断した。専門家として、Prausnitz博士はPVPを増加させることによってRotigotineの非結晶状態の安定性を維持する、しかしその違いはあくまで程度の差であると証言している。

さらに、2009年当時にPVPは結晶化を阻止するのに最も有効な物質であることは業界で周知であった。

UCBは589特許発明では常温において2年間Rotigotineの非結晶状態を維持することを要件としていると主張しているが、当該特徴は明細書に記載されているがクレームされていないので考慮されない。

上記のように2009年の時点において業界の化学的知見においてPVPの影響が周知であったことと、589特許発明と周知技術との差が程度のものなのでUCBによる予期せぬ効果の主張は認められない。

「B3」客観的な証拠を含む他の証拠によって非自明性を証明する;
商業上の成功を挙証する場合には、商業上の成功とクレームの構成要素との間に密接なつながりが無ければならない。即ち、商業上の成功とクレームされた発明との間に法律と事実の両面で十分な関連性がなければならない。 Fox Factory v. SRAM LLC (Fed. Cir. 2019)

本事案の場合にはMuller Patentsが長期にわたり存在し、当該特許が競合社(同業者)の本技術分野への新規参入を許さなかったという事実がある。即ち、Muller Patentsが当該技術分野(パーキンソン病に対するTTSパッチ)におけるブロッキング特許(排他権としてのみ働く特許)となった。少なくとも434特許(Muller Patents)による差し止めが終わる20213月までは競合社の参入が許されなかった。従って、UCBの商業上のデータに基づく非自明性の挙証は弱いと判断される。

結論
地裁判決を支持する。UCB589特許は自明であり無効。 

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(1) US Patent Related 

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