Escapex IP, LLC v. Google LLC
(Fed. Cir. 2025-11-25)
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Summarized by Tatsuo YABE – 2026-01-24
[1] 事案の全体像
本件は、Escapex IP, LLC(以下、Escapex)が、Google(YouTube Music / YouTube Video)に対して、米国特許9,009,113号(以下、113特許)の侵害を主張したことから始まった。
しかし、結論として本件は、
という経過をたどり、最終的にCAFCは、本件は 米国特許法285条 の「例外的事件」に該当し、さらに 連邦法第28章1927条に基づき、Escapexおよびその弁護士を連帯責任で制裁することが相当と判断した。
[2] Escapex の特許(US 9,009,113)の概要
(1) 発明の要旨
113特許のタイトルは“System and Method for Generating Artist-Specified Dynamic Albums”で、すなわち、
を対象とする、音楽配信・コンテンツ管理系のソフトウェア特許。
(2) クレームの本質的構成(概念的)
クレームを要約すると、以下のような構造を前提としている:
「アーティスト主導」「アーティスト指定」が中核概念です。
[3] Google(YouTube)の対象機能との決定的なズレ
(1) 最初の侵害主張:YouTube Music
Escapexは当初、YouTube Musicが113特許を侵害すると主張した。しかし Google は直ちに、Escapex が主張するクレームの要件が YouTube Music に存在しないことを指摘した。
(2) 訴状修正後:YouTube Video「Auto-Add」機能
Escapexは途中で対象を変更し、YouTube Video の「Auto-Add」機能を侵害対象とした。
しかし、ここで致命的な問題が生じた。
[a] クレーム要件との明らかな不一致
クレームの「発明の中核」と完全に無関係である。
[b] さらに致命的:優先日前公知
Googleは、自社のAuto-Add 機能は113特許の優先日前から公知であることを、簡単なインターネット検索で分かる事実として指摘した。仮に侵害というならば、GoogleのAuto-Add機能は同時に113特許を無効にする先行技術となる。
[4] 「提訴前調査なし」と判断された理由
本判決で極めて重要なのは、「なぜここまで強く pre-suit investigation 不足が断罪されたか」である。
CAFCは以下を重視した:
その結果、「本件は最初から frivolous(根拠のない訴訟)だった」と明確に認定されている。
[5] 米国特許法285条(例外的事件)認定の意味
本件は Octane Fitness 基準に基づき、
を総合評価して、§285適用が相当とされた。裁判所は本件を、「大企業が訴訟の負担を避けるために少額和解することを期待したnuisance litigation(嫌がらせ訴訟)」と事実上断定している。
[6] さらに異例:連邦法28章1927条 による弁護士個人責任
特筆すべきは、Escapexは、敗訴後に Rule 59(e) による再考申立てを行ったが、「新証拠」と称するものは自社CEO・自社エンジニアの宣誓書、以前から提出可能だった内容、明らかに証拠の基準として不十分と判断された。さらに、Googleが撤回を要請しても応じず、不要な訴訟コストを増大した結果、弁護士が reckless(無謀)に訴訟を増幅させたとして、弁護士本人にも連帯責任が課された。
まとめ(一言で言えば)
本件は、「クレームも製品も理解しないまま、大企業を相手にとりあえず訴えた結果の典型的失敗例」であり、Escapexの主張がいかに理不尽であったかを、CAFCが極めて明確な言葉で示した判決である。
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参考:
■ 米国特許法285条(35
U.S.C. §285)は、特許訴訟において「例外的な場合(exceptional cases)」に限り、裁判所が勝訴側に合理的な弁護士費用を授与できると定める条文で、日本では原則として認められない弁護士費用の敗訴者負担を可能にする重要な規定である。この「例外的な場合」の解釈は、Octane Fitness事件などの最高裁判決を経て、不誠実な訴訟提起や悪意のある行為などが判断基準となり、適用範囲が拡大する傾向にある。
■ Octane事件、Highmark事件 (最高裁: 2014-04-29)
285条に基づく「例外的な事案(弁護士費用を相手側当事者に負担させうる)」:
最高裁は、CAFCがこれまで適用してきた基準(Brooks Furniture 2005):
(1) 客観的に根拠がない訴訟(objectively baseless)であり、かつ
(2) 主観的な悪意(subjective bad faith)がある
しかも、この2要件を 明白かつ説得的証拠(Clear and Convincing Evidence) で立証する。
(ハードルが高すぎて地裁で285条が発動されていなかった)
を全面的に否定し、285条の「例外的な事案」とは通常の意味合いで解釈するべきであり、訴訟における一方当事者の立場が著しく弱い(そもそも訴訟するメリットがない)、或いは、不合理に訴訟が行われたという意味である。地裁裁判官は、事件の全貌を考慮しながら、事案が例外的なものであるか否かを事案毎に判断する裁量権を有する。
■ 米国連邦法28章1927条(28 U.S.C. §1927)は、弁護士(Counsel)が訴訟手続きにおいて費用を過剰に増加させた場合の責任(Counsel's liability for excessive costs)を定める米国連邦法で、裁判所は弁護士に対し、不当な、または悪意のある訴訟行為(frivolous, unreasonable, or bad faith litigation)によって生じた過度な費用を個人で負担(personally liable)させることができる。
■ Raylon LLC v. Complus Data innovation (Fed. Cir. 2012-12-07)
根拠なき訴訟の提起と法的制裁(弁護士費用請求可):
昨今稀に見る特許権者に制裁を科した判決。CAFCはRaylonのクレーム解釈と侵害理由は著しく合理性を欠くものであり、根拠のなき訴訟の提起であり法的制裁(弁護士費用の支払い)を科すべきと判断した。根拠のないクレーム解釈(claim construction)に基づく侵害裁判に対し、連邦民事訴訟規則11条に基づく制裁(弁護士費用の支払い)を課した判決である。