経過書類及び禁反言に関するCAFC・最高裁判決


 Pharma Tech Solutions v. LifeScan - Fed. Cir. 2019-11-12
経過書類禁反言と均等論:
本事案は経過書類禁反言(Prosecution History Estoppel)により均等論の適用が禁止されたことを示す分かりやすい判決である

 Amgen v. Coherus - Fed. Cir. 2019-07-29
経過書類禁反言:
本判決は経過書類禁反言に関するもので権利者Amgenは出願審査中に引例と識別するために引例にはクレームされた塩(salt)の組合せが開示、示唆されていないと述べた。CAFCは出願経過において出願人が特許を得るために主張した内容は、それが権利化するうえで真に必要であったか否かに拘らず、禁反言を構成することになりうる。寧ろ、禁反言を構成するか否かの判断は競合者が出願人の主張内容が問題となる発明主題を放棄するものであると合理的に理解するかどうかで判断すると判示した。

■ Hill-Rom v. Stryker - (Fed. Cir. June 27, 2014) 
クレーム解釈に対する丁寧な判決:
本事件は地裁の略式判決(クレーム用語の解釈)をCAFCが徹底的に否定し破棄差戻しした事件である。4つの構成要素の意味合いが争点となったが、地裁におけるクレーム用語の解釈には明らかな間違いが散発した。CAFCにおいてそれら地裁判断の間違いを躊躇なく正している。例えば、クレーム解釈においてPhillips基準が適用されること、即ち、明細書及び経過書類を参酌したうえで一般的な意味合いとして解釈される。しかし例外としては出願人が辞書編集者としてクレーム用語を自らの意味合いで規定している場合がある。さらにクレーム解釈において明細書の実施例を参酌するが、実施例の特徴をクレーム解釈には盛り込まない。本判決は地裁裁判官に恰もクレーム解釈基礎講座をしているようである。
依って、我々実務者にとっても本判決はクレーム解釈(及び明細書作成時の留意事項)を復習をするのに良い題材である。

 Nautilus v. BioSig - (Supreme Court: June 2, 2014)
112条2項の明瞭性の要件:
最高裁はCAFCの112条(2)項要件の判断基準、即ち、「クレームの意味合いが分析可能(“amenable to construction”)である場合、或いは、クレームが解消不能(“insolubly ambiguous”)な程度まで不明瞭ではない場合には112条(2)項の要件を満たす」を否定した。 最高裁が示した新基準は、112条(2)項の要件を満たすには「明細書および経過書類を参酌しても当業者が合理的な確証をもって(with reasonable certainty)発明の権利範囲が理解できる」ことである。即ち、”solubly ambiguous”から”reasonable certainty”とクレームの明瞭性のハードルを上げた。


  STAR SCIENTIFIC v. RJR  (Fed. Cir. August 25, 2008)
不公正行為(Therasense前):
本判決は、不公正行為の判断基準を変更したわけではない。しかし、今回の判決は過去のCAFCの不公正行為の判断に対する判示を整理し、不正行為の立証責任の基準をより明確にしたという意味で重要であると考える。特に、2004年のMonsanto判決を今回CAFCが再確認したという点に鑑み、被疑侵害者にとっては、問題となる特許の経過書類において、IDS開示義務違反の事実を見つけたとしてもそれを根拠にして特許の権利行使不能の抗弁が困難になると予想される。逆に特許権者にとってはIDS開示義務違反をしたことが後に発覚したとしてもそれ自体で特許が権利行使不能になることはないという意味において、既存のIDS提出ルーチン(社内・所内規則)が設定されており、同ルーチン(社内・所内規則)に基づきIDS提出を実行している場合には、同ルーチン(社内・所内規則)をより厳格に見直す必要性を課す判決ではないと言える。⇒ 後にCAFC大法廷で同じ争点に関し審理され不公正行為の認定に対する判断基準が判事された(Therasense v. Becton CAFC大法廷判決2011525日)。

 Phillips v. AWH Corp. (Fed. Cir. en banc: July 12, 2005)
クレーム解釈:
クレームの用語を解釈するときに何を参酌するべきか、また、その優先順位は如何にというクレーム解釈の手法・手順に対する大法廷判決がでた。後に訴訟におけるクレーム解釈の基準をPhillips基準と称する根拠となった重要判決である。
Michel判事に代表される大法廷判決多数意見によると、クレーム用語を解釈するときに内部証拠(クレーム; 明細書; 経過書類)を重視すること、辞書及び専門書(外部証拠)を使用することを否定しないが、内部証拠以上に過渡に依存するのは妥当ではないと述べております。 また、本大法廷はTexas判例(CAFC2002年の判決)においては、クレーム解釈時に過度に外部証拠を参酌する判示をしたことを認めた。クレーム用語を解釈するときに、まずはクレーム自身、それから明細書を当業者がどのように理解するかという観点でクレームを解釈するというのが最良の手法であるとするも、裁判官がクレーム解釈をするときに内部証拠と外部証拠をどのような順序で参酌するかでは自由裁量であって、重要なことは、各証拠にどれだけのウェイトを配分するかであると述べた。

 Festo最高裁判決  (Supreme Court: May 28, 2002)
 均等論(Festo最高裁判決):
CAFC大法廷判決破棄、差戻し 
最高裁は、出願経過において減縮補正されたクレームの構成要素にも均等論適用の余地が有ることと判示した。経過書類禁反言は、発明者が減縮補正された構成要素に対する均等物の全てに侵害を主張することを禁止するものではない 禁反言は広範な範囲の均等論の適用を禁止することはできるとしても禁反言の適用域を決定するには、当該減縮補正によって放棄された主題がなんであるかを検討することが必要である。即ち、減縮補正されたクレームの構成要素に対する均等物の全てに対して均等論の適用を禁止する(Complete Bar : CAFCの法理)と解釈する必要はない。減縮補正された構成要素が特定の均等物の形態を含む場合とは、例えば、①出願時に均等物の形態が予想できなかった、②減縮補正の理由が問題となる均等物と非実質的な関連性しかない場合であって、特許権者は「経過書類禁反言は均等物を排除する」という推定に対して、クレームの補正時に問題となる均等物の形態を文言上含めるようにクレームをドラフトすることが当業者にとって合理的に期待できなかったことを証明することによって当該推定に反駁することが可能である。