FESTO最高裁判決のまとめ

RE: Festo最高裁判決 2002年05月28日

Revised on August 09, 2002

(Flow chart added)

June 24, 2002

Tatsuo YABE

■ 判決の概要:

 

去る5月28日にFesto最高裁判決がでました。 2000年11月29日のCAFC大法廷判決を破棄し、当該CAFCに差戻しとしました。 (本事件は、1994年のマサチューセッツ地裁判決から始まり今回の最高裁判決に至りました。 ⇒ 過去の裁判の経緯は別紙 -Appendices・ を参照ください。)

 

即ち、CAFC大法廷においては、特許性に関わる理由(101条,102条,103条及び112条)でクレーム要素が減縮補正された場合にはその補正された構成要素には禁反言が成立し、均等論の適用が一切成されないという判決(complete bar)が、否定されました。

 

ここで、CAFC大法廷の判断である「特許性に関わる理由による補正」が、先行技術を回避するための102条(新規性)、103条(非自明性)に関する理由による補正だけではなく、米国特許法第101条(特許主題),102条(新規性),103条(非自明性)及び112条(特許記載要件)に関する理由による補正であることを肯定しました。

 

次に出願経過禁反言の成立に関しても実質的な否定はしておりません。 即ち、特許性の要件を満たすために実施された減縮補正に対して出願経過禁反言が成立することを確認しております。

 

しかし、出願経過禁反言が成立した場合に、その補正された構成要素に均等論が一切適用されないとする「完全禁止: complete bar」に対しては異論を唱えました。 その理由は過去の先例を基礎としてクレーム補正を実施し特許を取得した発明者がその後のFesto大法廷の判決のみによって本来所有していた均等の幅を全て奪われるということは不当であるということと、経過書類禁反言を適用する目的(補正によって表現したことと補正から導き出せる妥当な推論に発明者を固定させる)からいって正しくないこと、且つ、最高裁の先例とも矛盾するからです。

 

最高裁は、発明者の発明することに対するインセンティブと公衆の利益とのバランスを調整するために 特許性に関わる理由によって構成要素が減縮補正されたときに、出願人は当該補正によって補正前のクレームと補正後のクレームの領域を放棄した(即ち、補正された構成要素が問題となる均等物の形態を放棄した)と推定し、当該推定に不服の場合には、その推定に対して反証する(問題となる均等物を補正によって放棄していないことを証明する)責任を出願人に負わせると判事しております。 (rebuttable presumption)。

 

この推論に反論する手法に関して最高裁は大きく分けて以下の3つを指摘しております:

 

  1. 出願時において、問題となる均等物が予期できないものであったことを証明する。
  2. 補正の理由と問題となる均等物が非本質な関係にある。
  3. クレーム補正時に、当業者が問題となる均等物を文言上包括するように補正クレームに表現するということを期待するのが妥当ではなかったことを証明する。

 

However, in cases in which the amendment cannot reasonably be viewed as surrendering a particular equivalent --- e.g., (1) where the equivalent was unforseeable at the time of the application or (2) the rationale underlying the amendment bears but a tangential relation to the equivalent ・(3) the patentee can rebut the presumption that prosecution history estoppel bars a finding of equivalence by showing that at the time of the amendment one skilled in the art could not reasonably be expected to have drafted a claim that would have literally encompassed the alleged equivalent. PP 12-16 ・(cited from page 4 of festo corp. v. shoketsu kinzoku kogyo kabushiki co. syllabus (slip opinion by justice Kennedy, J)

 

上記(1)、(2)、(3)のうちの何れかが証明できれば補正によって問題となる均等物を放棄していないことを証明することが可能となります。 ⇒ AppendicesにFESTO最高裁判決に基づく均等論の適用をチェックするフローチャートを添付していますので参照ください。

 

さらに、1997年のWarner Jenkinson判決で言及されたように、特許性に関わる理由で補正されたか否かがはっきりしないときには裁判所はそれが特許性に関わる理由のために実施されたと推定し、その推定に対して一切反論が成されない場合には禁反言が成立し、補正された構成要素には均等論の適用ができなくなります。 この判事を支持することが確認されました。

 

このように、特許性に関わる理由で減縮補正された構成要素に均等論を適用するのを完全に禁止するというCAFC大法廷で構築された「Per se rule・(complete bar rule)」は否定されました。 即ち、最高裁は、減縮補正された構成要素に対しても均等論を適用できるという可能性を再度確認しましたので特許権者にとっては有利な判決であります。 しかし補正された構成要素が均等物を放棄していないということを上記(1)、(2)、(3)の何れかの手法で証明する責任を出願人側に負わせることで特許権者と公衆の利益のバランスを図ろうとしました。 このように、上記(1)、(2)、(3)を特許権者が如何に活用していけるのかに関しては、今後FESTO側がどのようにShoketsuの形態(問題となる均等物)を放棄していないと反論するのか、さらに、今後CAFCにおいて特許権者のどのような反論が認められるのかを継続的に見ていく必要があります。

 

以上

 

 

■ 著者コメント:

 

■ 問題となる均等物を補正によって放棄していないということを証明する:

 

特許性に関わる理由でクレームを減縮補正をした場合には、補正された構成要素が問題となる均等物を放棄したと推定するという「推論: rebuttable presumption」に対する反論を上記(1)、(2)、(3)に基づき、特許権者がどのように証明するかは最高裁の判決から予想することは困難です。

 

上記(1)、(2)、(3)を考察するために以下のような仮想シナリオを想定し検証してみました。 

 

仮想シナリオ:

 

 

出願時のクレームが断面形状が多角形で構成される鉛筆であって、当該多角形の実施形態として明細書に、3角形、4角形、5角形、6角形が開示されていた。 尚、断面形状が多角形の鉛筆は(丸形状を出願人の自認する先行技術と比較すると)机などが若干傾いていても転がり落ちてしまうという不具合を緩和することができるという利点を記載している。 また、明細書には断面形状を4角形以上の多角形にすることで鉛筆を保持するときの感触が良好で、鉛筆を持ちやすくなるという効果が記載されていた。

 

出願時のクレーム:

クレーム1 鉛筆 comprising:

多角形の断面形状を有するロッド; and

当該ロッド部内部に設けられた芯。

 

審査の結果、先行技術が引用され、断面形状3角形の鉛筆が開示されていたとする。 そこで102条拒絶に対応するべく、出願人はクレーム1を以下のように補正したとします。

 

クレーム1(補正) 鉛筆 comprising:

4角形、5角形、6角形の何れかの断面形状を有するロッド; and

当該ロッド部内部に設けられた芯。

 

この補正で102条拒絶が撤回された。 3角形を4角形、5角形、或いは、6角形に補正し、この状態で許可された。

 

被疑侵害の形態:

 

断面7角形の鉛筆を製造している。 これを均等論の適用の基に侵害と言えるかを検討する。

 

この場合には(1)出願時において、問題となる均等物が予期できないものであったことを証明するにはどうすれば良いでしょうか? 出願当時には断面形状が多角形の鉛筆は(丸形状を出願人の自認する先行技術)斜面での転がり性を少し規制することができるという効果を現出するためには当然7角形、8角形、またはそれ以上の多角形断面の鉛筆(但し、10角形を超える形態では断面が実質的に円に近くなるので転がり安くなり本願発明を構成しない)は予期可能であったとされるでしょう。 従って、出願時に被疑侵害形態が予期できなかったと主張するのは困難であると思慮します。 ここで、断面7角形の形態というのは断面6角形に比べて斜面上での転がり試験をすると6角形状の鉛筆よりも遥かに転がり性が増してしまい出願時にそのような形態を含めることは予期できなかったと主張すると当該(1)の証明(unforseability)は成功するかもしれませんが、補正されたクレーム1の当該構成要素に適用されるべき均等論の幅が断面7角形の形態までは拡張できないということを主張していることにならないでしょうか? 即ち、均等を判断するF/W/Rテストで「実質的に同等の結果を得る」ことができないことにならないでしょうか?

 

次に、(2)補正の理由と問題となる均等物が非本質な関係にあることを証明する場合に、先行技術の断面形状3角形が手による保持感触が良くないとして(副次的な作用効果)、3角形の断面形状を回避するべく補正がされたので、問題となる均等物(断面形状が7角形)と補正の理由とは非本質的な関係にあると主張が可能と考えます。 → 従って、補正された断面形状(4,5,6角形)に対して均等論を適用可能と考えます。

 

次に、(3)クレーム補正時に非本質的な代替物を文言上クレームに包括するように記載することを期待することが妥当(合理的)ではなかったことを証明することを検証します。 言い換えると、クレーム補正時において問題となる均等物を文言上包括するようにクレーム補正することが妥当であったのにしなかった場合には(3)を証明できないということです。 補正時にもっとも広い概念である「多角形状の断面」から引例を回避するために、明細書の開示された補正の根拠に鑑みて、「4角形、5角形、或いは、6角形の断面形状」にしか補正ができなかったわけです。 従って、非本質的な代替物(断面7角形のロッド)を文言上包括するようにクレーム補正時に補正することを期待することが妥当(合理的)ではなかったと言えるのでしょうか? ここで、本来であれば「3角形状を除く多角形状のロッド」と補正したかったのですが、明細書の開示に鑑みて、そのような補正は112条第1パラグラフの拒絶「新規事項の導入」を受けるためにできなかったとした場合には、クレーム補正時に被疑侵害形態を包括するように補正することが妥当ではなかったと主張できるのでしょうか?

 

上記仮説検証から判断すると、上記(1)、(3)を証明することは困難であるかもしれませんが、少なくとも(2)を証明できる可能性が高いので、上記クレームのロッド(補正された構成要件)の断面形状に均等論が適用される可能性は十分にあるのではないでしょうか。

 

注意: 上記の場合に、これまでのFesto大法廷の判決を基礎とすると、上記ロッド部は特許性(102条)の理由によって減縮補正されたので、当該構成要素には一切均等論を適用できないので、被疑侵害形(断面7角形の鉛筆)は非常に明瞭に非侵害と判断されます。

 

 

■ Festo最高裁判決を考慮に入れた今後の米国出願での注意事項

 

  1. 米国特許出願時:

 

 

 

 

● 先行技術調査を実施し、先行技術に対して審査官が特許性を明瞭に認識可能な独立クレームを準備しておく。(即ち、補正することなく許可されるクレームを準備);

(⇒ 特に重要な案件は、先行技術サーチをした結果と先行技術とクレームとの関連性の説明をつけて早期審査 Petition to Make Special狽実施する。)

 

● クレームの構成要素を出来るだけ小さく分割しクレームドラフトする(構成要素を補正し、PHEが成立しても、その影響を受ける要素を少なくする);

⇒ 但し W-J判決(1997)の All Elementsルールとのバランスに注意(more elements, more elements need to be analyzed!!)

 

● 場合によっては 「MEANS+FUNCTION形式」で構成要素を記載し、仮に、当該構成要素を減縮補正しても、補正された構成要素に、112条第6パラグラフの「均等物」のメリットを享受できるようにしておく。

(⇒ 言うまでもなく“Means + Functionクレーム”の解釈に耐えうるよう明細書で十分な開示をしておくこと)

 

⇒ 但し、連続的な数値範囲を明細書で開示している場合に、その一部がクレームされていない場合には Johnson & Johnston判例 (Johnson & Johnston Associates Inc. v. R.E. Service Co., Inc., 285 F.3d 1046, 62 USPQ2d 1046 Fed. Cir. 2002 in banc: disclosed but unclaimed subject matter is dedicated to the public and cannot beheld to be an infringing equivalent・ per se rule)が適用されることを認識しておくこと。

 

● クレームの権利範囲に影響を与えるような、スペルミス、文法ミスに注意し、112条拒絶を受けないように、ドラフトしたクレームをProofreadする。  ⇒  重要案件は米国特許弁護士(特許代理人)に英文明細書及びクレームを Proof-readしてもらう。(場合によっては英文明細書をRewriteしてもらう)

 

● 多数項従属クレームから多数項従属クレームを従属させない(→112条第5パラグラフ拒絶を受ける→PHEが成立する→DOE適用可否不明⇒ 最高裁で認められたpurely cosmeticの範疇か? 不明!)

 

  1. 出願後、第1回目のOAが発行されるまで:
  2. ● 必要であれば予備補正書(Preliminary Amendment)を提出し、クレーム追加を行う。

    ⇒ 予備補正書におけるクレーム補正はクレームの自発補正の範疇と理解され、そこでクレーム補正を行うとそれは自発的なクレーム補正と解釈されるので、それが特許性に関わるものでないと主張できれば良いが、出願人自らが新たな先行技術を見つけ、その先行技術を回避するために、補正する場合には、少なくとも所定の主題を放棄したとして禁反言が成立するであろう。 しかし、予備補正書において新規にクレームを追加するのは特許性の理由に関わる補正とはみなされず、(クレームを追加することによる特許主題の放棄がない)出願時に既に存在していたクレームと同等の扱いを受けると思慮します。

     

  3. OAを受けた時:

 

● 重要案件に対しては審判請求を実施する。

 

● 審査官と面談を実施する。 ⇒ 約30分のインタビューに対して通常僅か3−5行の面談要約しか記録に残らない(審査経過書類に不利な記録を減少可能

 

● 先行技術を回避するべくクレームを補正する場合には、独立クレームを補正するべきか、従属クレームを独立クレーム形式に補正するべきか。 ⇒ 結局 Mycogen Plant Science, Inc. v. Monsanto Co., 243 F. 3d 1316, 58 USPQ2d 1030 (CAFC 2001)によってどちらの補正であっても実質的な法的差異はないとされました。

 

● 特に、自発補正をする場合には、「それが特許性に関する理由による補正ではないという旨」を意見書(remarks)で明記しておく。 ⇒ 自発補正の目的が出願人自身が新たに見つけた先行技術を回避するために実施されたものであれば前記remarksを挿入しても実質的な意味はないと考えます。

 

● 補正するにしても出来るだけGenericな用語で補正し、文言上の権利範囲に十分な広さを残すようにする。 ⇒明細書に補正の根拠が準備されていることが前提条件です。 (上記@のセクションの第2番目の要件を参照のこと)

 

  1. 特許許可通知発行されたとき:
  2. ● 重要案件は継続出願(継続審査)を実行するなどして出来るだけ長期に渡って出願の係続性を維持しておく。

     

  3. 権利化(米国特許発行)された後:

 

 

今回のFesto最高裁判決の前に米国弁護士によって作成されたOPINION(2000年11月29日のCAFC大法廷の判決を基礎としている侵害鑑定書或いは特許有効性分析)があればFESTO最高裁判決の判事に鑑みて訂正の必要があるか否かをチェックする必要があると思慮します。 特に「減縮補正によって均等論適用不可故非侵害」という判断がある場合には、該クレーム中の構成要素が問題となる均等物を含むように均等論を適用可能か否かを再度検討する必要があると思慮します。

 

 

ライセンス契約にあり、ライセンス許諾者(licensor)側にある場合には、少なくとも均等論侵害の認定がFesto大法廷の判決よりも緩和されたわけですからライセンス費の増加交渉をすることも可能ではないでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Appendices

 

Festo v. Shoketsu Kinzoku Kogyo (SMC)

Supreme Court of the United States No. 00-1543

 

Festo >> Owner of USP4,354,125 (Stoll Patent) and USP B1 3,779,401 (Carroll Patent)

 

FESTO I マサチューセッツ地裁 SMC INFR UNDER DOE

02/03/1994

SMC Appealed to CAFC

 

FESTO II CAFC Affirmed (SMC INF UNDER DOE)

12/14/1995

SMC Petitioned

 

FESTO III SUPREME COURT Vacated/Remanded In view of W-J

03/17/1997

Remanded to CAFC

 

FESTO IV CAFC Re-affirmed (SMC INF UNDER DOE)

04/19/1999

 

SMC en banc Re-Hearing Requested.

 

FESTO V CAFC Granted en banc Rehearing

08/20/1999

 

FESTO VI CAFC en banc Decision No Infringement under DOE

11/29/2000

 

FESTO VII SUPREME COURT Vacated/Remanded to CAFC

05/28/2002